
| 週刊三軒茶屋 第63号 著作:アイヨシ 公開日:2006/03/19 生首ミステリ |
『ミステリ百科事典[→Amazon]』(間羊太郎/文春文庫)が、文春文庫から完全版として発行されました。楽しみながらミステリについての知識を得るのにはうってつけの本です。ただ、もともとが少々古い著作なので、今だったらあれを付け加えるのにな、とミステリファンなら多かれ少なかれ思うことでしょう。そんなわけで、自分メモついでに、微力ながら今回は首(生首)についてまとめてみました。 首の切断といえば、広い意味ではバラバラ殺人の一種です。 ただ、首には他の腕や足といったパーツとは違った意味・インパクトがあります。腕や足が見つかっても必ずしもその被害者の死を意味するわけではありませんが、首が切断されてたら王大人ならずとも死亡確認です。生首は問答無用の死を象徴しています。 その意味で、やはり『ドウエル教授の首』は、SFではありますが、個人的に受けたインパクトからもどうしても取り上げないわけにはいきません。これは怖かった。生首も怖かったけど、その後の展開はもっと怖かったです。 ゲームではありますが、一時期ネットで話題になった韓国のこのゲームもすごいインパクトです。いや、やろうとしたことは分かるのです。何もおどろおどろしいものを作ろうと思ったはずはなく、恋愛ゲームを作ろうと思ったんだけどエロゲにはしたくはないし、でもプレイヤーはそういうものを勝手に期待しちゃうだろうからそういう先入観を持たれないようにするにはどうしたらよいのか考えた結果が、体がなければエロはできまい、ということで生首になったのだと思います。気持ちは分かりますが、やっぱり怖すぎます(笑)。 それと、せっかくの機会ですので、アンパンマンの不気味さも強く主張しておきたいと思います(笑)。 有名な魔術というか奇術、いわゆるマジックに『スフィンクス』というのがあります。テーブルの上に”生きた生首”(いかにもミステリ作家が好みそうな言葉ですね)が乗っかっている、今でいうイリュージョンの先駆けともいえるものです。このマジックの優れたところは、鏡を用いたシンプルなアイデアもさることながら、”生きた生首”という衝撃的な現象を実現した点にあると思います。ちなみにこの『スフィンクス』、カーの短編『新透明人間』(カー短編全集1『不可能犯罪捜査課[→Amazon]』[創元推理文庫]所収)で成り立ちなどが詳しく説明されています。さらにこの『新透明人間』、桜庭一樹の『少女には向かない職業』とセットで読むとちょっとニヤリとできます(笑)。 バラバラ殺人と首の切断のもう一つの違いは、首(頭部)が個人のアイデンティティをもっとも証明するパーツであることが挙げられます。ですから、古くは首の切断されたミステリといえば被害者と何者かの入れ替えを疑うのがセオリーでしたし、今でも古典を読むときにはそのことを頭に入れておかなくてはなりません。顔を焼くのと同じ意味です。ですから、首の切断とバラバラ殺人(死体の運搬が便利、とか、殺害方法をごまかすため、etc)は狭い意味では異なるものです。『占星術殺人事件』はどっちだろう? なんてことを無邪気に語ろうとするとネタバレしちゃうということもあり得ますので注意しましょうという注意文自体がネタバレになってるような気もしないでもなかったり(コラコラ)。 とはいえ、科学捜査の進歩した現在では、DNA検査を行なえば被害者の身元なんてアッサリ割れちゃうので、それほどの意味はありません。しかし、警察の介入がなされないクローズド・サークルの中での首の切断は今でも効果を十分に発揮し得ます。『クビキリサイクル』なんかがその一例ですけど、この作品の場合にはそれに+αがありまして、そっちの方がメイントリックになってます。思えば、戯言シリーズも最初のうちは割とオーソドックスな本格ミステリだったんですよね(遠い目)。 ちなみに、『クビキリサイクル』のオビには清涼院流水の文章が載ってまして(ないのもある)、それには、理不尽な《首切り》の横行する馘首(リストラ)時代って書いてあります。言われてみれば、首切りと聞けば解雇の意味を思い浮かべるのが多分普通で、首なし死体とかを真っ先に思い浮かべるのはミステリファンとしては立派なのかもしれませんが、社会人としてはアレなのでしょう(笑)。 首の切断=被害者の入れ替え、という本格ミステリのお約束的前提を頭に入れて読むと面白いのが『生首に聞いてみろ[→Amazon]』(法月綸太郎/角川書店)です。この作品の場合だと、被害者の首を切断したのは被害者の身元をごまかすためではなく(ネタバレ反転→)犯人自身の身元のごまかし、入れ替わりを隠す目的で首を切断しています(←ここまで)。古典的な命題を現代に鮮やかに甦らせるその手法・ロジックの妙には甚だ感心させられました。 科学が進歩した現在では、生首に、今までにない新たな価値を見出しているものもあります。『凍るタナトス[→Amazon]』(柄刀一/文春文庫)は、人体(死体)を冷凍保存して未来の医療技術による甦生を願うクライニスト財団というのが合法的に存在している設定のSFチックなミステリです。その作品内では、頭部には人間のニューロを保存するものとして、その切断・破壊には特別な意味があります。科学の進歩は、古典的命題を殺しもすれば再生もするということがいえるでしょう。 以上ですが、紹介した作品の選択は独断と偏見で行なったものですし、アイヨシ自身の知識の限界も当然のことながらありますので、「これを挙げないなんて分かってねーな」というのもおありでしょうが、その点は平にご容赦下さい。最後に、個人的に最も印象に残っている首切りミステリとして『ジェゼベルの死』を挙げておきます。これは悪趣味だった……。 |