週刊三軒茶屋 第33号 著作:アイヨシ 公開日:2004/9/29

「セカチュウ」のレビューを書くはめに…。

 言わずと知れたベストセラー『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一/小学館)は、300万部を突破という脅威の売れ行きを上げ、映画化もTVドラマ化もされた大ヒット作です。
 ところがです、当サイトで主に書評を書いているアイヨシ、フジモリ両名とも、ハッキリ言って食指が動きません。ベストセラーは読む気がしないという天邪鬼な精神と、そもそも恋愛小説なんか興味がない、というのが主な理由です。
 とはいえ、これだけヒットしてしまい、他の作家がこの作品と同じテーマでこの作品を打ち破ることを目指しているであろう現状にあって、無視するのはどうかと思うし、興味があることも否定できないが、しかし、自分は読みたくない。相手が書評を書いて、それを読んで自分も読んだ気になるのがベストだが……。
 そんな二人の目論見が酒の席でのジャンケン三本勝負となり、その結果、武運拙くアイヨシが敗れてしまいました。

なんてこったい!!

 その日のうちにさっそく本屋に寄らされ、無理やり本書を買わされることと相成りました。
 くそー。店頭に並んでなくて喜んでたのに、店員さんを呼びつけて裏から持って来させるとは…(せめて古本で買いたかった)。
 まあ、済んじまったことは仕方がありませんし、読むことにしましょう。

 そもそもですねぇ、海外SFをそれなりに読んでいる人間として、タイトルが気に入らないのですよ。周知のとおり、本書のタイトルは、ハーラン・エリスンの『世界の中心で愛を叫んだけもの』(ハヤカワ文庫)がもとになってますが、内容的には何の関係もありません。そのくせ、『セカチュウ』の方はベストセラーに映画化・TVドラマ化と知名度抜群になってしまい、どっちがどうなんだか、SFに詳しくない一般人からすればわけのわからないことになってしまってます。そんなわけで、『世界の中心で愛を叫ぶけもの』の十一刷のオビには「元祖」と書いてあります(笑)。
 また、1996年10月から1996年3月末までテレビ東京で放送されていた人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の最終回が「世界の中心でアイを叫んだけもの」だというのも、知ってる人にとっては有名な話だったりします。
 それにしてもですねぇ、けものが愛を叫ぶから貴いのであって、「けもの」をとってしまったら台無しなんだけどなぁ…。

 で、いつまでもタイトルに愚痴っててもしょうがないので読みましたよ。こんな薄い本を2週間以上かけて(笑)。いや、少し読んで嫌になってやめて、少し経ってまた読んでの繰り返しでしたけど。興味のない本を読むのがかくもしんどいものだとは(笑)。
 とにもかくにも読み終わった今になってみて思うことは、そんなにダメな本ではなかったなと(笑)。ひとことで言うと、彼女が白血病で死んじゃう物語で、何のひねりも無くて、小説としてはよくある話です。
 ストーリーがたいしたことがないのなら、大切なのは細部というか、ひとつひとつのエピソードということになりますが、それも別にとりたててたいしたものは…。
 ただ、愛とか死とかについて、宗教的というか哲学的というか、形而上学的なことが割と普通に淡々と書かれているために、全体的にストイックな感じになっているのが特徴といえば特徴でしょうか。
 そんなわけで、本書の印象について誤解を恐れずに言えば、もう少し意外な展開とか印象的なエピソードとかが必要な、完成前の作品だと思います。

 実際、どこがどう良いのかと聞かれても返答に困ってしまいます。
 しかし受けてます。ベストセラーです。なぜでしょう。これは多分読者が立派なんだと思います。つまり、本書自体の完成度は決して高くないのですが、そのために、かえって欠損部分を読者の想像力で補うことが可能なのです。実際、アキの病気に対して何もすることのできない朔太郎の無力感とか、アキが死んだあとの喪失感とかについての描写は驚くほどに希薄です。書いてないことはないのですが、省略してあるといっていいくらいです。その上、ストーリー自体はシンプルなので、そうした脳内補完を行なってもストーリーそのものは歪まずにすむのです。したがって、具体的にどこがいいのかは分からないのに、口コミとかで「良い」という印象だけが広まって、こうしてベストセラーになったということだと思います。

 映画化・TVドラマ化されたのも、上記のような考えによればむしろ当然で、単純なストーリーを守りつつ欠損部分は自由にアレンジできるのですから、むしろ通常の原作ものよりも遥かにやりやすかったはずです。


 以上のようなわけで、本書のファンの方にとっては怒られそうな感想ですが、既にベストセラーになってる本の感想なんですから営業妨害にもならんでしょうし、大目に見て下さい(笑)。
 恋愛小説をほとんど読んでない人間が、よせばいいのにベストセラーだからって無理やり読んで書いた戯言だと思っていただければ幸いです。

世界の中心で、愛をさけぶ

著者:片山恭一(かたやま・きょういち)
出版:小学館
初刊:2001
装丁:装幀 柳澤健祐 カバー写真 川内倫子
定価:1,400円+税
ISBN4−09−386072−6


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