週刊三軒茶屋 第18号 : アイヨシ

毎年楽しみにしている本

突然ですが、アイヨシが毎年楽しみにしている本があります。それは『重要判例解説』です。

…えっ?何それ?という方がほとんどだと思います(笑)。これは、有斐閣から毎年出ている判例(裁判所の判決)集で、毎年度各法分野ごとに重要判例を集めた本です。毎年6月初旬ごろに発売されてます。法律を勉強している人以外はまず読むことのない本です(笑)。ましてや、法律を勉強した人でも毎年楽しみにしている人は稀だと思います。

アイヨシが大学1年生だったころ、これ一冊で判例集はOKかな?などという無知ゆえの思い込みで購入して以来の付き合いです(ちょっと遠い目・笑)。

前置きが長くなりましたが、そういうことで『平成13年度版重要判例解説』を買いました。ISBN4−641−11576−1で、定価は2800円+税です。

楽しみにしているのにはそれなりの理由がありまして、第一に、「そういえばそんな事件もあったなぁ…」という懐かしい思いにひたることができます。最初に載っている判例は「親族間の情義と裁判官の懲戒処分」という事件(※註1)です。これは、妻A(判例集は匿名が原則です。田中角栄だって判例集では匿名になってます)がストーカー行為をしているという逮捕前の捜査情報を知らされた当時福岡高裁判事が、Aの容疑を晴らすためにAから事情を聞いた上で(この時点では、妻Aは事実を否認しています)、「Aの容疑事実ストカー(ママ)(※註2)防止法違反」などの書類を作成して、これを弁護士と高裁事務局長に渡したという事件です(ちなみに、この裁判官は辞職願いを提出して受理されています)。

裁判官の妻で、しかもストーカーというスキャンダラスな要素がてんこもりだったために、一時期ワイドショーなどでかなり話題になりました。そんな事件も、重要判例解説になると事実関係も整理されていますし、法律的問題点も明確になっています。当然ですが、事件のことを知る上で、マスコミから情報を得るよりよっぽど有意義です。もちろん、速報性には欠けますが、逆にいうと、マスコミの情報は速報性と引き換えにかなりのものを失っているということを改めて思い知らされます。

もう一つの理由として、そんな事件があったなんで知らなかったという事件を知ることができます。例えば、「Xら7名は、対立抗争していた反主流派らの襲撃に備えて、竹竿16本、鉄片41枚を支持して集合し、明治大学構内に押し入った」という事件が紹介されています(p173より引用)。アイヨシの感覚では、これは大事件だと思います。しかし、アイヨシには初耳でした。

「お前の情報収集アンテナの感度が悪いだけだ」「お前の記憶力が悪いだけだ。私は覚えている」と言われればそれまでですが、多分、マスコミでそんなに大きく取り上げられたことはないはずです。

勘違いして欲しくないのは「こうした事件を取り上げないマスコミはけしからん」というつもりはないということです。違法手段によって自らの思想を社会に主張しようとする団体の行為をマスコミが取り上げることは、その団体の思う壺ということになり、更なる違法行為の誘発ということになりかねません。まあ、取り上げないのには他の理由も考えられますが、何でも取り上げればよいというものではないと思います。たまには、「今日は何もありません」というニュースがあったってよいと思います(24時間テレビだって、24時間休みの方がよっぽどインパクトがあると思います・笑)。

まあ、マスコミは表現・報道の自由を、ときに過度の強調していますが、実際には視聴率やらスポンサーやら様々なバイアスがかかっているわけで、マスコミの流す情報ばかりあてにしていると、知らないうちに偏った方向に誘導されかねないということを再確認できます。

所詮は法律専門誌なので、なじみのない人には読みにくいこと間違いありませんが、世の中にはこんな本もあって、しかも意外に面白いんだよ〜、ということでちょっと宣伝してみました(笑)。

(記2002年7月27日)


※註1

アイヨシ個人の意見としては、この判事には同情的です。自分の妻に犯罪容疑がかかっていると聞かされたら、法律知識のある人間が弁護活動っぽいことをしてしまうのは仕方がない気がします。もちろん、そのために越権行為や権限濫用があってはいけませんが…。

が、それ以前の問題として、検事から判事にこうした情報が流れたということが大問題だと思います。刑事事件において、裁判官は検事と被告人(及びその弁護人)双方の意見を公平に聞いた上で有罪・無罪を判断しなければなりません。したがって、判事と検事の間にはある程度の緊張感が必要だと思うのですが、よりにもよって捜査中の情報が漏れるのは、司法の公平性に対する信頼性を大きく損なうものだと思います。


※註2

『ママ』というのは、「間違っているのは承知していますが、原典が間違っているので、仕方なくそのまま引用しました」という意味です。ルビのように振られることもあります。

この判事が「ストカー」と間違ってしまったために、この文書に触れている公文書はすべて「ストカー」となってしまいます(笑)。



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