
| 『続・走れメロス』 著作:アイヨシ 公開日:2001/03/05 |
※ この物語は、太宰治『走れメロス』の続きです。 ひとりの少女が緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。私は、気をきかせて教えてやった。 「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ」 勇者は、ひどく赤面した。 民衆は幸せそうに「万歳、万歳」と歓声を上げている。暴君ディオニスは人が変わったかのような穏やかな表情をしている。そして、わが友メロスは、まだ顔を赤らめながら、可愛い少女から受け取ったマントを着ている。 実に素晴らしい光景である。だが…。セリヌンティウスは思った。 確かに素晴らしい光景だ。私は真実の友であるメロスとこれ以上ないかたちで友情を確かめ合うことができた。私にとってメロスは親友であるし、メロスにとっても私は親友だ。おお、命をかけた友情の素晴らしさよ!二人の絆は永遠のものになるに違いない。 しかし、私の心には何かすっきりしないものがある。何かがしこりとなっていて、この光景を心の底から喜ぶことができないのだ。一体何がそうさせるのだ? 私とメロスはお互いを信じていた。だが、ほんの一瞬友情に迷いが生じた。それは二人がこれからも親友であり続けるためには見逃すことのできない裏切りであり、だからこそ、私たちはそのことを告白し合い、お互いを殴り、こうして唯一無二の親友でいられるのだ。 しかるに、ことの最初から私たちのことを微塵も信用していなかったにもかかわらず、私とメロスとの友情を得ようとしている者がいる。暴君ディオニス…。 彼はたくさんの罪のない人間を殺した。妹婿、自らの王位を継ぐべき息子、妹、妹の子供。それから皇后、忠臣、たくさんの人間を殺してきた。そもそも、メロスが王城に侵入して国王を殺そうとしたのも、国王のそうした悪行の数々を聞かされたからであった。加えて、国王はその日だけで6人もの無辜の臣民の命を奪っているのである。 そうした自らの行いを棚に上げ、国王はメロスを死刑にしようとした。そして、メロスが妹の結婚式に出席するために、私を人質として指名したときには、世にも残忍な笑みを浮かべて、メロスが刻限に遅れてきて私が処刑されるのを心の底から楽しみにしていたのである。それが、この国王だ。 なるほど、確かに今は過去の行いを悔い、改心したのかもしれない。事実そうなのだろう。しかし、だからこそ、国王が何の犠牲も払わず、何の痛みも覚えずに私とメロスの友情を得ようとしているのに我慢がならないのだ。 そう私の中にあった心のわだかまりの正体がはっきりしたとたん、国王への怒りがふつふつとわきはじめた。よくもぬけぬけと民衆の歓声のただ中にいられるものだ。こいつはこの国を恐怖のどん底に叩き落した極悪人だ。殺戮によって自らの権力者としての地位を確固たるものとして、なおかつ国民の反乱をおそれて疑わしい者は皆殺しにした。そんな男をこのまま許してよいのか! 私がそのようなことを考えていると、民衆の歓声に混じって、ひとりの老女の叫び声が聞こえてきた。 「人殺し!私の息子はお前に殺された!私の息子を返せ!私はお前を絶対に許さない!」 その途端、今まで改心した国王を称えていた歓声がとまどいのざわめきに変わった。それまで穏やかだった国王の顔に狼狽の色が見える。少女と何か楽しそうに話していたメロスの表情に緊張の色が走る。 民衆のざわめきは次第に大きなものとなってきた。思えば、ここ1年あまりの間に多くの罪の無い人間が殺されてきたのだ。その事実は、民衆にとって否定しようのないものだ。 「私の友もたくさん殺された…」 「私の愛する夫…」 民衆のざわめきは、人の心を信じることができず、それを疑うあまり国王によって行われた大虐殺で命を奪われた親友、知人、夫や妻への愛惜の叫びとなった。 そのとき、メロスは国王の方へ向き直って叫んだ。 「聞こえますか国王、民衆の心の叫びが!あなたの手によって大事な人の命を奪われた者たちの悲しみの声が!あなたは彼らの声にどのように答えるつもりなのですか!」 「…わ、わしは人の心を信じることができなかった。怖かったのだ!だから…。し、しかし、今は違う!わしは人の心を信じることの素晴らしさを知った!だから…」 「だから何だと言うのです!あなたは、私とセリヌンティウスの仲間に入れて欲しいと言った。私とセリヌンティウスは互いの友情を一瞬だけ疑ったことを、互いを殴ることで許しあい、それによってより強い友情を得ることができた。それにひきかえ、あなたは今まで人の心が信じられないあまりにたくさんの罪の無い人間を殺してきたのです。そのことにどう報いるというのですか!親友の間での一瞬の疑いすら殴られることが必要とされるというのに、あなたは、何もせずに私とセリヌンティウスと、民衆からの信頼を得ようというのですか!!それで信実を知ったと言えるのですか!」 おお、友よ!やはり君も私と同じ思いを抱いていたのか。メロスは、今度は民衆の方に向き直った。 「国民よ!国王は確かに過去の自らの行いが過ちであったことを認めている。しかし、それで過去に行われた極悪非道の数々が許されて良いのであろうか!私は、自分や我が友セリヌンティウスの恨みのためにこのようなことを言っているのではない!私とセリヌンティウスは今度のことでかけがえの無い友情を手にすることができた。何より私たちは生きている。しかし、失われた命は、もう二度と帰ってくることはないのです!」 メロスの訴えに、民衆のざわめきは徐々に力強いものとなっていった。メロスはさらに続ける。 「国王は人の心を信じることを知った。だから私たちの仲間になりたいという。しかし、本当に人の心の真実を知り、過去の行いを悔いているのなら、国王は自らの命を国民の手に委ねて裁きを受けるべきです!私がセリヌンティウスに殴られたように!」 「国民よ!今こそ立ち上がる時です!国王を裁き、私たちの望む、新たな王を立てるのです!!」 メロスの叫びに民衆から賛同の声が上がる。 「国王に裁きを!」「暴君に死の報いを!」「夫のかたき!」 民衆の叫びは熱を帯びてきている。それは大きなうねりとなってこの国を動かそうとしている。民衆の熱気はとどまることを知らない。そうだ!メロス!君は何て素晴らしいんだ。友人としてのみならず、民衆の心をこのように掴んでしまうとは!そうとも、君こそ王に相応しい!メロスよ!君が王になるべきだ! 私も民衆と一緒にシュプレヒコールを上げる。 「メロス!メロス!」 メロスはさらに民衆に訴えかける。 「国民よ!…」 そうだ、メロス!もっともっと、アジれメロス!! |
(アイヨシのあとがき) わー、ごめんなさい、石を投げないで下さい。1回ダジャレをやってみたかったんです。結構面白いと思うんですけど、ダメでしょうか…?アイヨシはダジャレ嫌いじゃないんです。ただし、酒の席では勘弁して下さい(笑)。ちなみに、"アジる"とはアジテーションする、の略で、扇動する、あおる、という意味です。 いいわけをもう一つ。太宰治は、いわゆる日本の純文学作家の中で最もアイヨシの好きな作家です。代表作の『人間失格』なんて、よくぞここまでくどくど悩めるものだと読んでて感心しました。一番好きなのは『斜陽』です。 で、この作品のもとネタは、アイヨシが中学生か高校生の時だったと思いますが、忘れました。とにかく、国語の授業で『走れメロス』を読んだ時です。みなさん、おかしいと思いませんでしたか?アイヨシは不思議で仕方がありませんでした。どうしてこの作品がハッピーエンドを迎えるのか?どう考えても国王と手を取り合ってのエンディングはありえません。国王はよくて国外追放だと思いました。だから国語の授業なんて(ブチブチ)。 で、陰口を叩いても仕様がないので、大学院生になってからですけど、日本文学研究科で太宰治を主に研究している学生に酒の席でこの不満をぶつけたところ、『あれ(走れメロス)はテンポを楽しむ作品であって、いわば童話のようなものでしょう』ということでした。まあ、お互い酔っ払ってたので、その後は適当なバカ話に花を咲かせていましたが、テンポといわれれば納得できます。確かに、読み直すとノンストップで読めます。同時代の作家の作品の読みにくさを考えると、本当にテンポが良いといえます。そして、そのテンポがそうした疑問を封じるのでしょう。だったら、なおさら国語の授業ではそういうことに触れなければいけなのでは、と思うアイヨシの強い気持ちが、この作品を書かせたわけです。 この"有名文学作品をおちょくる"というパターンは他にもいけそうな気がします。ただ、あくまで本家あってのものなので邪道なのは否めませんが…。でも、アイヨシお気に入りの作品です。スッキリしました(笑)。 |
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