伊賀忍法帖
著者:山田風太郎(やまだ・ふうたろう)
出版:講談社文庫
初刊:1964
装丁:カバー装画 天野喜孝
定価:629円+税
ISBN4−06−263988−2

[裏表紙を丸写ししたあらすじ]
 戦国の魔王松永弾正、己が邪恋を成就せんと、妖術師果心居士の弟子・根来忍法僧に数千の美女狩をさせた。伊賀忍者笛吹城太郎の妻・篝火もまたその贄となって果てた。だが奇怪! 復讐に起った城太郎の前に、弾正の寵姫が、篝火の顔で艶然と微笑み、地獄へと誘う。根来vs.伊賀、容喙する柳生新左衛門の死闘!



 本書のあらすじ、あるいは最初の方を読むと、「これなんてエロゲ?」って言いたくなるストーリーだと思いがちです(私がそうでした)。しかし、実際に読み進めますとエロよりもむしろグロで、しかも思ってたほどそうした要素は強くありません。ですから、そういうのが苦手な方でも意外に大丈夫ではないかと思います。責任は持てませんが(笑)。

 本書は、山田風太郎のいわゆる『忍法帖』シリーズの中の1冊です。戦国時代や江戸時代といった歴史小説的なフレームの中で、忍者や剣士・妖術師たちが奇想天外な死闘を演じます。平たく言えば、歴史の教科書に書いてあるような大まかな事実は守りながら滅茶苦茶やってる、ってことです。歴史小説を読んでるふりをしてお馬鹿な物語を楽しめるというわけですね。もちろん、少しだけ歴史の勉強にもなりますし(笑)。

 ライトノベルみたいだなぁ、と言ってしまうと、シリーズの書かれた時期(第1作『甲賀忍法帖』は1958年に発表)的に極めて不正確かつ失礼なのは承知の上です。でも、このシリーズには時代を超えてもなお読まれるだけの面白さがあって、それを支える文章の読み易さは圧倒的で、読んでて古臭さを感じることはまったくありません(ただし、多少感じても歴史小説なら許せる、という側面はありますね)。
 映画化・漫画化の試みも多数なされていますが、そのことは視覚メディアとの親和性の高さを示す証拠でもあり、コアなファンのみならず一般大衆的な層にも広く受け入れられている証しでもあります。
 とにかく、今読んでももちろん面白いです。発表当時から人気なのも納得ですし、さらに時代が過ぎても読み継がれていくであろうことは確実な面白さなのです。

 そうした普遍的な面白さとは一体何なのでしょう? 本書『伊賀忍法帖』に描かれていることと言えば、エログロの他に忍法・妖術・剣術を駆使した冒険活劇でもありますし、純粋かつドロドロな愛憎劇でもあります。こうしたジャンクな要素はいつの世にも広く読まれて当然な要素ですし、廃れることがないのは明らかです。
 超人たちのバトルは、少年たちにはいつの時代でも人気のあるものです。特に『忍法帖』シリーズにおいては、超自然的な術・忍法の使い手同士の死闘がつきものです。
 ただし、本書の主人公である城太郎は優れた忍者ではありますが、人間の枠を超えた存在ではありません。一方、城太郎が妻・篝火の仇として追うことになる七人の根来僧たちは何れも人知を超えた忍法の使い手で、まともに戦ったら城太郎のかなう相手ではありません。ですから、城太郎は相手がどういう忍法を使うのかを事前に調べその上で対策を講じ、ときには奇襲やだまし討ちを仕掛けます。忍法対忍法ではないのが『忍法帖』シリーズの中における本書の特徴ですが、それが逆に読み易さ・敷居の低さへとつながると思います。そういうわけで『忍法帖』シリーズに興味のある方が最初に手に取るべき本として本書は比較的オススメです。
 また、篝火に漁火に右京太夫といった、外面の似た三人の女が本書では登場しますが、彼女たちを通じて、異性を好きになるのは内面か外面かという問題に主人公である城太郎は直面しますが、それこそ恋愛トークとなればいつの時代でもお約束と言える話題でしょう。
 こうした”売れる”要素をきちんと押さえつつ、それでいてストーリーはどうなるのかまったく予想がつきません。登場人物たちはそれぞれが生き生きと勝手に動き、当事者たちの思惑は当たったり外れたりで予断を許しません。そんな自由気ままなストーリーでありながらも、大枠では歴史小説でして、決してその枠を出ることはありません。ですから、多少ファンタジーなことをやっても日本人の想像力なら補えてしまいます。
 また、本書では果心居士による未来予知を通じて主人公たち、ひいては読者に歴史的な宿命・運命の必然性が伝えられます。それによって、物語自体を重層的な奥深いものにしつつ、破天荒な物語を端整な形でまとめ上げてしまっています。この点は憎らしい程に巧みだと思います。

 ちなみに、本書の巻末には京極夏彦の『忍者という妖怪の誕生』というちょっとしたエッセイがオマケについておりまして、忍者・忍法という言葉と山田風太郎との関係について簡単にまとめています。
 忍者とか忍法って意外に新しい言葉だったんだな、とか思いつつ、でもでもそんな小難しいことなど考えずに気楽に読むのが吉だと思います。


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