妖魔の潜む沼
原題:The Fellowship of the Talisman
著者:クリフォード・D・シマック(Clifford Donald Simak)
訳者:冬川亘(ふゆかわ・わたる)
出版:創元推理文庫
装丁:カバーイラスト 若菜等
初刊:1978
定価:500円+税
ISBN4−488−67602−2
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[あらすじ]
 20世紀のブリタニアでは妖魔の軍勢が猛威を振るい、荒廃した大地〈劫掠の地〉がどんどん広がっていった。そんな折、名家であるスタンディッシュ家で、かつてイエスズのとりまきの一人であったと思しき男の日記と見られる手稿が発見される。もしこれが本物であればイエスズの存在が証明されキリスト教世界は救われることになる。しかし、その手稿の真偽を確かめることのできる人物に鑑定を依頼するためには、〈劫掠の地〉を挟んで遠方にあるオクスンフォードの街にまで赴かなければならない。スタンディッシュ家の長男である若き剣士ダンカンは、友人のコンラッドと共に手稿を届ける旅に出る。危険な旅の先に待つものは果たして……?


 20世紀の地球が舞台となっていますが、文明はそんなに発達していません。なぜなら、この世界では定期的に妖魔と呼ばれる正体不明の殺戮者の軍勢が発生し、その軍勢に狙われた地域は恐怖と荒廃の地へと変えられてしまうからです。そのため、この世界の文明は千年にわたって停滞したままとなっています。しかも、妖魔とは別に妖精や魔物といったものが存在し、さらには魔法使い(キリスト教徒から見れば妖術使い)までいたりしますので、れっきとしたファンタジー世界が舞台になっています。そう考えると、手稿の存在・イエスズの存在の方が逆に世界観から浮いているように思えるのですが、そこがこの物語の面白いところなのです。

 この物語は、ある意味ロールプレイングゲームのように展開していきます。すなわち、最初は二人(+戦さ馬と闘犬と荷物引きのロバ)というメンバーですが、冒険が進むにつれて次々と仲間が増えていきます。しかし、この仲間というのが一癖も二癖もある者たちばかりです。
 とりあえず最初に仲間になるのは、恨みつらみがあるわけでもないのに死に切れなかった臆病な幽霊に、まともな隠者になろうと思いながらも全然悟りを開けない修道士くずれの老人アンドリュー、魔女になるために修行を積んできたものの正直者で悪になり切れずに挫折した老婆メグといった面々です。ハッキリ言って役立たずばかりですが、たまに役に立ったりします(笑)。
 個性派ぞろいのメンバーの中でも特にいい味を出していて個人的にお気に入りなのがアンドリューです。そもそも聖者になろうとする者が庵で幽霊と仲良く暮らしているという時点でダメなのですが(除霊しろよ)、いざ冒険の旅に出ても陰鬱なことばかり言ってパーティの雰囲気を暗くします。体力面では足を引っ張るばかりですし、夜の見張り番では寝入ってしまい一行をあわや全滅の危機へと追い込んでしまいます。そんなどうしようもない奴なのですが、聖者であろうとする志は持ち続けてますし、メグと会ったときも、さんざん罵倒しておきながら空腹の彼女のために自らのチーズをあげるようなこともします。ひねくれ者ですがいい奴なのです。
 冒険は続き仲間はさらに増えていきますが、からかってるのか助けてくれてるのか分からない気紛れな小鬼(ゴブリン)とその仲間の弔いの精(バンジー)といった妖精たちに、魔法の素質がないのに魔法使いの弟子をしている美女ダイアン、さらには悪魔(!)といった変なキャラクターがパーティの一員となっていきます。
 『指輪物語』を引き合いに出すまでもなく、パーティを組んで冒険の旅に出るタイプの物語はたくさんありますが、これだけ個性的なメンバーが集まるものもそうはないと思います。こうしたメンバーたちの噛み合ってるようで噛み合ってなくて、それでいてやっぱり噛み合ってるような会話を読んでるだけでもとても楽しいです。ただ奇抜なキャラクターを登場させているだけじゃなくて、それぞれの関係性が物語をとても豊かなものにしています。ですから、新たなキャラクターが既存のキャラクターの魅力と出番を損なうことはありませんし、むしろ物語はどんどん面白くなってきます。

 ストーリーというか結末は、なかなか味わい深いものになっています。品切れ・絶版状態なので(涙)ネタバレしてもいいかと思いつつも我慢することにしますが、キリスト教と他のファンタジー的な要素が共存しているという点は、『折れた魔剣』と共通なのですが、その目指している方向性と言いますか、暗示されている未来が真逆とも理解できるのがとても面白いと思います。
 個性的なキャラクターたちの競演が本書の魅力であることは間違いないですが、そうしたキャラクターたちが象徴している背景・価値観を選別・統一するのではなく共存していくことこそが未来への道である、ということを著者はこの物語を通じて言いたかったんじゃないかと思ったり思わなかったり。
 それにしても、この結末は斬新というか予想外でした。

 ホントに楽しい物語なので品切れ・絶版状態なのが寂しいです。邦題とカバー絵を今風なものにすれば十分に通用する傑作ファンタジーだと思うので、復刊されればいいなぁ、と無駄な希望を抱きつつ、もし古書店で本書を見かけることがございましたら是非是非ご覧になってみて欲しいと思う次第であります。強くオススメします。

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