星降り山荘の殺人
著者:倉知淳(くらち・じゅん)
出版:講談社文庫
初刊:1996
装丁:カバーデザイン 辰巳四郎
定価:752円+税
ISBN4−06−264615−3

[あらすじ]
 経営の苦しくなったキャンプ場の山荘に集まった面々。不動産開発社長とその部下、作家とその秘書、UFO研究家、女子大生2人組。そしてスターウォッチャー星園詩郎と、社内でのゴタゴタで星園のマネージャー見習いにさせられた杉下和夫。
 大雪で天候が大荒れとなり、陸の孤島となってしまった山荘で殺人事件が発生した。犯人は一体誰なのか? 本格ミステリのお約束を丹念になぞりつつも、鮮やかに読者の裏をかく傑作長編推理小説。



 言ってみればそういうことになるのでしょうね。セルフ・パロディを繰り返していけばそのジャンルは滅びます。核になるスピリットを持たないで、小道具や状況設定だけを積み重ねてゆくと、ミステリ外部の人が読んだら「何だこりゃ、ミステリ』ってこういうものなのか」って思いますよ。僕が自分で規制していることは、ミステリ外部の人が読んで違和感がないということを大事にしたいと思うんですよ。
(本書解説p492より)


 UFO研究家とかスターウォッチャーとかあまりにインチキな香りのする登場人物たちに引かないで下さい(笑)。いや、正直アイヨシも引きかけましたが、そこを我慢して読むだけの価値はある傑作です。

 本書は他でもない本格ミステリでして、そのことは冒頭から枠内太字ゴシックでの作者の言葉でハッキリと明示されます。『壺中の天国』とは違ってオーソドックスで正統派な本格ものです。その宣言通り、本書は全ての情報を読者と共有するワトソン役(そして犯人ではない)の杉下和夫の視点で語られていきます。読者に対してフェアであることへのこだわりを示しているものです。
 作者の言葉は、作中に何度も出てきては論点を整理し、ときには紛らわしさを排し、読者の推理を論理的なものにし易いようにフォローしていきます。こうした作者から読者への直接の語りかけが何の違和感なく(?)受け入れられるのも本格ミステリならではでしょう。
 本格ミステリとは、もちろん小説なので作中の物語や登場人物たちの会話のやりとりが楽しみのひとつですが、犯人当てゲームとしての作者対読者の知的勝負という一面も備えています。
 本書で時折現れる作者の言葉は、そんな知的勝負を読者に楽しんでもらうための工夫であると言えるでしょう。でもって、実は工夫以上の意味があったりなかったりするのですが、未読の方の興を削ぐようなことはしたくないのでこの辺で(笑)。ただ、100%フェアなことだけは保証します。
 あくまで個人的にですが、本格ミステリって、例えネタが分かってたとしてもそれはそれで楽しく読めると思っています(←だからと言って他人にネタバレしても良いって法はない)。しかし、これはネタバレなしで読んだ方が絶対に驚けて楽しめます。一発芸的な仕掛けではありますね。

 そんな思わせぶりのネタは別として、作中であぶり出される論理と、それに基づく推理のやりとりは隙がなくて緻密で堅苦しくて、とても好感の持てるものに仕上がってます。派手な大技(?)だけでなく、地味ながらももっとも大切な基本がしっかりしています。いわゆる、”古きよき時代”のミステリを読んでるような気分が満喫できました。最初はあんなに胡散臭いと思ってたのに(笑)。
 小説とゲーム性とのバランス、古さと新しさ、基本と大技とが絶妙なバランスで、なかなかに傑作だと思います(欲を言えば、もうちょっと短く出来ればもっと良いように思うけど、それは無理かなぁ……)。コアなミステリファンにはもちろんですが、それよりもミステリ初心者の方にオススメしてみたい一品です。


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