| 七姫物語 第四章 夏草話 |
|
|
著者:高野和(たかの・わたる) 出版:電撃文庫 初刊:2006 装丁:イラスト 尾谷おさむ 定価:590円+税 ISBN4−8402−3561−9 |
|
[あらすじ] 七宮カセンと三宮ナツメとの間で和解が成立し、二人の姫は人々の前で友好を示す。 しかし、その和解は他の勢力の様々な動きを呼ぶことになる。一宮シンセンとの対立を深める二宮スズマ。一宮と二宮の二つの大都市に近い五宮・六宮の双子都市は新たな融和の道を模索する。 各勢力の駆け引きが続く中、カラスミはツヅミの街中を歩く。それはこれまでとこれからを見つめるためのつかの間の散策だった。 争いは望まないけれど、上を目指せば競い合いは避けられない。競い合わなければ、多分。高みへは行けない。競い合わずに高いところに辿り着けるのは、きっと、初めから高い場所を知ってる人だけだと思う。 私は知らない。見上げただけ。そして。私が手を伸ばした先は、きっと、ずっと高い。 (本書p80より) 七宮カセンと三宮ナツメとの争いが一段落着いたところで、この巻では他勢力の動きがいよいよ活発化してきました。 駆け引きは様々な場所、様々な形で行なわれていますが、それでいて登場人物はあまり増えていないのが特徴的です。それというのも、七つの宮都市を象徴する七姫の存在によるところが大きいです。 ツヅミを巡る七宮カセンと三宮ナツメとの戦いが和解によって終結したことを、空澄姫と常磐姫とが会談し、ともに街中で宮行列をすることで内外に示します。各都市を都市たらしめている制度が曖昧なままでも、ひとつの勢力として各都市の人々をまとめている象徴としての巫女姫の役割は、やはりとても重要です。 東和の各都市の住民の拠り所である七姫ですが、それは読者にとっても同じで、姫の心情・動向を追うことで、その都市の思惑や動きを把握することが可能な仕組みになっているのが本シリーズの巧みなところです。各都市を擬人化した存在としての姫、あるいは、都市に萌えるための存在としての姫、ということが言えるかも知れません(参考:『萌え』とは何ぞや?)。登場人物があまり多くなってしまいますと、それぞれについての描写がどうしても散漫になってしまいがちですから、そうしたことを防ぐための工夫でもあると思います。 そんなわけで、東和の人々にとっても読者にとっても、七姫はとても大事な存在なのです。 宮都市の象徴としての姫だけでなく、個人としての姫の個性も徐々に描かれてきています。前の巻でもそうでしたが、エヅと常磐姫のコンビは微笑ましいですね。黒曜姫(相変わらず怖い……)には騎団長という心を開ける腹心の存在がいますし、これからの更なる活躍に期待です。浅黄と萌葱は二人同士の会話である程度キャラが立ってました(ふわふわした二人組・笑)が、ハルセの行動によってその思惑がハッキリと見えるようになりました。人格的に完成されたキャラが多い中にあって、若さを自覚しながら行動するハルセは個人的にはとても好感の持てるキャラです。後は、二宮翡翠姫の心情を映す人物の登場が待たれるところです。こんな風にそれぞれの姫の描写を増やしつつも、既に退場してしまった琥珀姫への配慮も忘れないところが実に憎らしいです。 他の姫の描写もかなり増えましたが、それでも本シリーズの主人公はあくまでカラスミです。カラスミは空澄姫をクビになって(=お忍び)、ヒカゲと一緒にツヅミの街中を歩きます。そうすることで、カセンとは違う都市のことを知り、カセンとナツメの戦いがツヅミにもたらしたもの・戦禍といった、ツヅミ住民の様々な声を聞きます。そうすることで、更なる困難に立ち向かうことを決意します。 きっと、目に見える確かな争いは、大きな戦は、必ずしも多いものではないと思う。見えないこと、知らないこと、世界は積み重なっている。(本書p80より)とはカラスミの思いですが、そうした見えないこと・知らないことを丁寧に描写しているところが、独特の雰囲気・季節感を大切にしているところと合わさって、本シリーズを語る上で良く用いられる”透明感”という読後感・評価につながっていくのではないかと思います。 夏草の季節が終わり、次の巻ではいよいよ空澄の月を迎えることになります。続きが猛烈に楽しみです。 |