七姫物語

著者:高野和(たかの・わたる)
出版:電撃文庫
初刊:2003
装丁:イラスト 尾谷おさむ
定価:550円+税
ISBN4−8402−2265−7


[あらすじ]
 ある大陸の片隅、【東和】。
 そこでは七つの都市がそれぞれに先王の隠し子と呼ばれる姫を擁立して勢力争いを続けていた。
 孤児だった少女は、9歳の頃にテン・フオウとトエル・タウによってカラスミの名を与えられる。それが、七宮カセンの巫女姫・空澄姫としての彼女の人生の始まりだった。
 それから3年が経った時、隣都市ツヅミがカセンに侵攻してきた……。



「いいか、俺が将軍、コイツが軍師。お前がお姫様な。三人で天下を取りに行くぞ」
(本書p18より)


 2003年の第9回電撃ゲーム小説大賞〈金賞〉受賞作です(『バッカーノ!』も同金賞受賞作。ちなみに、大賞は壁井ユカコの『キーリ[→Amazon]』)。


 大陸の片隅の、半島と呼ぶのもおこがましい【東和】と呼ばれる一地域・一つの小国内での出来事ではありますが、七つの都市間の政略・軍略・策謀による勢力争いは、群雄割拠の仮想戦記ものと一応表現することができるでしょう。ただ、戦記ものと呼ぶには実のところ微妙な違和感もありまして、その微妙さがまた本書の魅力でもあります。

 本書の主人公はカラスミ(空澄姫。カラカラ)です。食べ物じゃありません。武勇に秀でた将軍テン・フオウと知略に富んだ軍師トエル・タウによって担ぎ出された姫であり、七宮カセンの象徴、つまりはお飾りです。
 一介の孤児がいきなりお姫様ですからちょっとしたシンデレラストーリーかと思われるかもしれませんが、そうではなくて、独特の雰囲気を持った戦国ものです。
 本書の特長は、何と言っても主人公がお飾りの姫様であるという点につきます。お飾りお飾りと連呼していますが、何も皮肉で言っているわけではありません。象徴には象徴なりにきちんとした役割、仕事があります。神事に祭礼・姫同士の話し合いといった場面が丁寧に描かれることで、一都市の現状を大局的な視点で理解・把握することができるのも本書の面白いところです。
 そもそも、この手の物語の場合、優れた将軍にやり手の軍師がいるのですから、そっちの方を積極的に描写して、例えばど派手な戦闘シーンで物語を彩ったり、あるいは術数権謀の駆け引きで読者を楽しませる方法もあるはず、というか、それがむしろセオリーというものでしょう。ところが、このシリーズ、特に本書と二巻までは徹底してこのお飾り、一都市の象徴である空澄姫の視点で物語は語られます。将軍が戦場で敵を圧倒したり、軍師が知略を練ってる場面がないわけではないです。しかし、それらは空澄姫の目にとまらない限りは、空澄姫の推測、あるいは伝聞で語られるに過ぎません。
 本書の目次に注目して欲しいのですが、各章が物語内の月ごとに構成されています。筒井康隆の『虚人たち』ほど偏執的な時間配分ではありません(『虚人たち』は原稿用紙1枚分が物語時間で1分)が、各章がバランスのとれたボリュームで描かれています。
 それぞれの章では、空澄姫が姫としてのお仕事・神事祭礼を戸惑いながらも努めたり、お忍びで街中を探索したり、敵襲にあって仲間とはぐれて放浪したりといったことが、大体同じくらいの筆量で語られます。一都市の象徴としての姫様、しかも12歳の子供にとってはどれも貴重で大切な経験なのは確かですし、こうしたところで手抜きをせずに、空澄姫の見ているもの・感じたことが丁寧に描写されているのが本シリーズの大きな魅力のひとつです。
 この描写の等価性は戦争シーンにも及びます。ちょっとネタバレになりますが、本書の後半では七宮カセンが四宮ツヅミに反撃して攻勢に出ます。普通の戦記ものの場合、こうした大事な戦闘シーンは戦術的にも戦略的にもしっかりと描写して読者をひきつけるのが常套手段です。ところが、本書の主人公は空澄姫です。そして、お姫様が前線に出て活躍するなんてことはあるはずもなく、後方で戦況を聞くだけです。報告を聞いて、勝ってるみたい、勝ったのかな、と思うくらいです。そんなわけで、普通だったら最重要である都市の存亡を賭けた戦争シーンがほぼ省略で終わってしまうのです。これは斬新というか新鮮です(笑)。都市の象徴である姫にとっては、戦争そのものよりも、戦争の始まりとなる演説と、戦争終結の着地点を見出すための道具としての役割の方がより重要なのです。

 空澄姫はお飾りのお姫様で都市のためにできることはほとんどなくて、実際のところは東征将軍テン・フオウと左大臣トエル・タウが実権を握っています。二人とも桁違いの嘘つきで何を考えているのかさっぱり分かりませんが、先の見えない”高み”を目指しているようで、そんな二人と一緒にいられるのが幸せなカラスミの巫女姫としての物語は、まだまだ始まったばかりです。


戻る。