| フェミニズム殺人事件 |
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著者:筒井康隆(つつい・やすたか) 出版:集英社文庫 初刊:1989 装丁:写真・大倉舜二 調理・たいめいけん 定価:495円+税 ISBN4−08−749892−1 |
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[あらすじ] 作家の石坂は、小説執筆のために6年前にも宿泊した産浜ホテルに滞在することにした。 そこには既に会社役員夫妻、美人のキャリア・ウーマン、地元の名士、大学助教授の5人の先客と、6年前と同じ支配人夫妻がいた。 高尚な会話、豪華な料理と、高級ホテルはサロン的な雰囲気に包まれていた。 しかし、そこに思わぬ殺人事件が発生した。ホテルへの侵入は困難でしかも被害者の部屋にも鍵がかかっていて、いわば二重の密室状態での殺人事件だった。 本格ミステリとしての基準で評価すると、本書はお世辞にも出来がよいとは言えません。 (以下ネタバレ↓) 最初の事件発生時には登場人物が揃ってないですし、密室の謎も作中でも指摘されていますがお粗末なものです。ま、これは一見普通のミステリだと思わせてそれを逆手にとった変わったことをやりたかったということで、意図そのものは分かります。分かりますが評価はできません。 ただ、6年前に何があったのかをまさに話し始めた丁度その時に本書は物語を閉じます。通常のミステリだったら作中の登場人物が秘密を抱えていてそれが事件の解決には必ずしも必要がない場合にも「捜査の必要性」で説明されることがお約束になっています。それを皮肉っての趣向だと思いますが、これはなかなかいい読後感を残していて成功していると思います。 (↑ココまで) とはいえ、本書のテーマは本格ミステリ的にどうのこうのではなく、タイトルが表しているとおり”フェミニズム”です。 フェミニズムと言ってもいろいろありまして(Wikipedia→フェミニズム)、実際、作中でもフェミニズムについての具体的な定義といったことは説明されません。 説明はされませんが、主人公である作家の石坂は、自身の次回作の構想としてフェミニズムについて一定の考えを披露します。文芸批評において資本主義に対抗するため概念としてフェミニズムには可能性がある。つまり、家族の機能が消費経験だけの場にされていることを批判するためにフェミニズムは有効ではないのか。にもかかわらず、石坂の次回作の中に登場する主人公の文芸批評家はそうしたフェミニズム批評の可能性についてはまったく気が付かず、自らの家族、妻や娘のことには目もくれず、そのくせ妻や娘の支出をきちんきちんと計算し帳簿をつける吝嗇な男であり、その物語はその帳簿に記入されている商品とその金額の羅列から始まる、と説明されます。 構想段階とはいえ非常にこっけいなシチュエーションです。しかしながら、本書の真相が明らかになるシーンにおいて、被害者が購入していた商品とその金額とが次々と述べられていきます。これは一体どういうことでしょう? 作中に登場する美貌のキャリアウーマン(死語?)でありフェミニズム論者である竹内史子にがそうなのですが、つまりフェミニズムを論じようとするとかえって自らがフェミニズムの呪縛に囚われてしまうという自縄自縛に陥ってしまう傾向があり、著者である筒井康隆が本書に託したフェミニズムについての考えがそういうものなのではないかと思います。よく分かりませんけどね。 被害者が殺害された動機についても、社会における女性の立場の変化というものがありますから、別に上述したような深読み(不可読み?)をしなくても、”フェミニズム殺人事件”という看板に偽りあり、ということにはなりません。 ちなみに、本書は『文学部唯野教授』とほぼ同時期に執筆されたもので、実際、唯野教授の内容に言及している部分もあります。そして、唯野教授の文芸批評講義は”ポスト構造主義”までで、フェミニズムについては「後期でとりあげることにしましょ」とか言いながらとりあげられることはなく終わってしまいます。ですから、唯野教授の講義の続きが(ホントにちょっとだけ)垣間見ることができるという点でも本書に興味を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんし、筒井ファンには価値のある本だと思います。 |