| 富豪刑事 |
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著者:筒井康隆(つつい・やすたか) 出版:新潮文庫 初刊:1978 装丁:カバー 真鍋博 定価:438円+税 ISBN4−10−117116−5 |
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本書は、刑事でありながらとんでもない金持ちの子息である神戸大助が大金を有効に活用して事件を解決していくという、資本主義の論理をミステリの世界にそのまま持ち込んだユニークで痛快な小説です。深田恭子が主演でテレビドラマにもなりましたから、筒井康隆作品の中でもタイトルの知名度は抜群でしょう。 刑事で金持ちといえば、「こち亀」の中川を想起されるかもしれません。しかし、中川は捜査のために金を使ったりはしません。対して、神戸の方は湯水のように金を使いまくります。公私混同しまくりです(笑)。 通常のミステリの場合、警官なら地道な科学捜査などで犯人を割り出しますし、名探偵だったら突飛で華麗な論理で犯人を推理します。ところが、本書では捜査や論理の代わりに金で事件を解決します。こう言っちゃうとミステリとしての魅力に欠けると思われてしまうかもしれません。けれども、金を使って解決と言ってもそれはそれで考えなければならないことはたくさんあります(てゆーか、万能すぎてあれもこれもということになります)ので、ミステリとして十分に楽しめます。 本書には中編4本が収録されていますがそれぞれに凝ったシチュエーションで、ワンパターンになっていないところはさすがの構成力です。 〈富豪刑事の囮〉は、時効期限が迫った五億円強奪事件の犯人を割り出すため四人の容疑者に富豪刑事が接触して、豪華な生活をみせつけることで奪った大金を使うように仕向けるという、とんでもないストーリーです。神戸の金持ちぶりも分かりますので第一話として相応しいです。 〈密室の富豪刑事〉では、商売敵を得体の知れない密室で殺害したと思われる限りなく黒に近い容疑者がいるにもかかわらず、犯行方法が特定できないために犯行を立証できないという状態を打破するために、神戸がゼロから会社を設立して商売上のライバルとして立ちはだかることで、容疑者に再び同様の密室殺人を行なわせようと企てます。 見え見えの罠だと思われるかもしれませんが、こんな金のかかる回りくどい罠など実際には想像する方がどうかしてるので十分成立してしまうのが、”富豪刑事”という設定の特長であり面白さです。 〈富豪刑事のスティング〉は誘拐ものです。金のかかった犯罪といえば普通は誘拐が思い浮かぶでしょうから、そういう意味では起こるべくして起きた事件だと言えるでしょう。とはいえ「たったの五百万円か」(注:本書が単行本で刊行されたのは1978年で現在とは貨幣価値が異なる)にはやはり笑ってしまいます。 刑事たちの捜査状況の同時描写を試みてみたり、あるいは時系列を恣意的に並び替えてみたりという叙述的な工夫がなされているのも本作の読みどころではあります。もっとも、成功しているかどうか微妙ですけどね(苦笑)。 ちなみに、タイトルの”スティング”って、この場合にはどういう意味なのでしょうね? 〈ホテルの富豪刑事〉は、大きな暴力団組織の会合が行なわれることを知った警察が対応に苦慮しているところに、富豪刑事が高級ホテルを貸し切って、二つの暴力団ともそのホテルに泊めてしまうことを提案します。ホテルの従業員に警官が変装することで監視も容易になるし、万が一のことがあっても市民に迷惑がかかることもないしということで、富豪刑事のアイデアは採用されることになります。 事件の解決のみならず治安維持・事件発生の予防という観点は、事件開始後から事実上ストーリーが始まるミステリとしては珍しいと思いきや、予期せぬ事件が発生して刑事たちは対応に苦慮することになります。本書収録作の中で一番の出来だと思います。 ”金で解決する”という展開はミステリに限らずとかく敬遠されがちですが、とはいえ要は使い方なわけです。そこのところをついてこうした楽しい作品が4本も出来上がってるわけですから、まさにアイデアの勝利と言えるでしょう。 |