DIVE!!(文庫版全2巻)
著者:森絵都(もり・えと)
出版:角川文庫
初刊:2002
装丁:カバーイラスト 影山徹
定価:上下巻共800円+税
上巻のISBN4−04−379103−8
下巻のISBN4−04−379104−6

[あらすじ]
 10メートルの飛び込み台からダイブしてその空中での演技と着水の美しさを競う飛込み競技。
 その一瞬のダイブに魅了された少年たちのダイビングクラブは赤字経営で存続の危機にあった。そこで出された存続の条件はなんとオリンピック出場だった。
 知季と飛沫と要一と、少年たちはそれぞれの飛込みを武器に、それぞれの思いを胸に、そのすべてを一瞬に賭ける!



「うん。四回半なんて夢みたいな話だけど、でも、だからこそ越える価値があると思った。ぼくが決めて、ぼくが越える枠。だから誰にも邪魔されない。成功すればはっきりとわかるし、だれの目にも見える。そんなクリアな枠がほしかったんだよ」
(本書下巻p95〜96より)


 3人の少年たちが飛び込みのオリンピック代表を賭けて青春のすべてを注ぎ込む熱い戦い、それが『DIVE!!』です。
 『カラフル』の主人公は美術部の少年でしたが、本書は飛込み競技の少年3人が主人公のスポ根小説です。どちらも、この年頃の少年の抱える問題とか機微とかそういうものが、真剣にではあるのですがとても軽妙にも描かれているのがポイントです。少年たちの個性を浮き上がらせることでは、この作家の右に出る人はそうそういないと思います。

 本書は4部構成になっています。

 第1部『前宙返り三回半抱え型』での主人公は坂井知季です。3人の中では一番若い14歳で、飛込みにはそれなりに一生懸命取り組んできたものの、それまでは無名の選手でした。
 しかし、新たにやってきコーチの夏陽子の指導によってその才能を見出され、彼の演技は見違えるように上達していきます。そしてついには中学生レベルでは見ることのできない前宙返り三回半抱え型を自分のものとするまでに成長します。しかし、飛込みに熱中するあまり、彼女を弟にとられてしまいます。それに、今まで一緒に飛込みをやってきた友人からもその成長を妬まれて、選考会直前になって知季は失意に沈みます。それでも彼は飛込みを選びます。それまで選ばなかったものをあきらめるのではなくて超越することを決意して。

 第2部『スワンダイブ』の主人公は沖津飛沫です。彼の祖父は天才ダイバーでしたが、その能力のピークが第二次世界大戦と重なってしまったために、パフォーマンスを最大限に発揮することができませんでした。その孫である飛沫は、夏陽子に誘われてダイビングクラブにくるまで正式な飛込み種目に参加したことは一切なく、津軽の日本海の荒波に20メートルの高さから飛び込んでいました。そんな彼の初めてのダイブを見たライバルの少年たちは、そのダイナミックさに驚愕します。
 野性味あふれた天性の飛込みを持っているにもかかわらず、彼は飛込み競技というものに魅力を感じることができません。生きた海への飛込みは危険への挑戦であるのに対し、それより半分の高さから薬の匂いのするプールへの飛込みには飛沫の心を動かすものが何もありません。一体祖父は何を求めて飛び込み競技をやっていたのか? 疑問を抱えたまま彼は大会に参加します。そして、自らの可能性と限界を知ることになります。

 第3部『SSスペシャル'99』の主人公は富士谷要一です。おかしな章題ですが、彼の挑戦する演技がこれです。とはいえ、こんな名前の演技は正式にはないのですが、そこが実に彼らしいところなのです。
 飛沫と同じ16歳ですが、両親共に飛込みの元オリンピック代表でしかも父親がダイビングクラブのコーチという出自を持つ彼は、まさに飛込みのサラブレッドです。クラブ内での人望も厚くて、幼い頃から大会で上位の成績をおさめてきた彼は、オリンピック代表選手を決めるに当たって、知季や飛沫より優位な立場にはありました。
 しかし、メダル重視の日水連の思惑によって、選考会が行なわれることなく自分がオリンピック代表に選ばれたことで要一はスランプに陥ります。自分が目指していたはずのオリンピックのはずなのに、要一は実感を得ることができません。決められたレールの上を走らされるのではなく、自らの意志で走りたい。そのために彼は一大決心をします。

 そして、第4部『コンクリート・ドラゴン』では、ついにオリンピックを賭けた三人の戦いが行なわれます。時間にしてわずか1.4秒の飛込みを10本行いますが、すべて合わせても14秒という短い時間にもかかわらず、そこには少年たちのすべてが詰まっています。努力と才能と精神力のすべてが刹那に凝縮されて、そして弾けます。
 この選考会がとてもドラマチックでして、展開は二転三転します。最後に勝つのは一体誰か? その結末はさすがにバラせません。是非是非ご自分の目でお確かめ下さい。
(↓ですが、ほんのちょっとネタバレ。既読の方のみ反転。)
 飛沫と要一が主人公の章題はそれぞれの挑戦する演技名となっているのに対し、知季だけすでに完成させている『前宙返り三回半抱え型』で、四回半が章題になっていません。そのことが結末を暗示しているわけですが、とても巧みな構成だと思いました。
(↑ココまで)
 3人の主人公の努力や葛藤・苦悩が各章で丁寧に描写されているのですが、この3人の存在感の配分が絶妙です。3人とも応援したくなってしまいますが、そうするとみんなに勝って欲しくなってしまい、最後に誰が勝つのか、あるいは勝つべきなのかが分からなくなってしまうのです。これこそまさにスポーツ小説の醍醐味だと言えるでしょう。
 3人だけではなくて、それぞれの周囲に居る人間、コーチや両親・兄弟・恋人・友人といった脇役たちにもまた存在感があって、選手としての視点だけでなく、とても多面的な視点で飛込み競技というものを見ることができます。
 飛込み競技というのは作中でも散々語られているとおりマイナーなスポーツで、そんな見向きもされないスポーツに打ち込んでいる少年たちの姿はとてもストイックです。そんな日陰者なスポーツでもオリンピックのメダルが絡んできちゃうと、途端に彼らの周囲は知らない大人たちの思惑でガチガチに固められてしまいます。そんな中にあっても、彼らは彼ら自身のために、彼ら自身の求める一瞬の快感のために飛び込みます。

 スポーツ小説としても青春小説としても掛け値なしに一級品の本書は、まさに老若男女にオススメの一冊です。


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