| カミングアウト! |
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著者:高殿円(たかどの・まどか) 出版:ヴィレッジブックスedge 初刊:2006 装丁:イラスト 池田ハル 定価:680円+税 ISBN4−7897−2715−7 |
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[あらすじ] 携帯電話の数だけ自分を使い分けて援助交際をする女子高生、さちみ。 職場でロリィタ趣味を隠し続ける29歳OL、リョウコ。 母親でも妻でもなくなった女、史緒。 結婚しないまま人生の終盤を迎え自分の墓を買ったサラリーマン、臣司。 間もなく定年になる横暴な夫に復讐の時を待つ妻初恵。 それぞれが心に抱えた秘密のカミングアウトを誓うとき、交わるはずのなかった人生が意外な関係を生じ始める……。 先のことはどうなるか分かりませんが、この書評を書いている2006年3月の時点では、高殿円といえば代表作は『銃姫[→Amazon]』(高殿円/メディアファクトリー文庫)のライトノベル作家という認識が一般的なものでしょう。 そんな著者が初めて一般(?)文芸向けに書いたのが本書になるわけですが、とても面白いです。 これだけのものが書けるのなら、ライトノベルの方はそこそこで切り上げて、こっちの方向で頑張ってもいいんじゃないかと、余計なお世話ながら思いました。それだけの傑作です。 一見無関係に見えた複数の人物の描写が、だんだんと重なっていって思わぬ展開を見せる、というのはミステリには割りとありがち(代表例:『ラッシュライフ[→Amazon]』[伊坂幸太郎/新潮文庫])です。 なぜミステリで多いかといえば、通常のミステリでは、最初に密室殺人とか不可解な連続殺人といった謎があって、それが手がかり・伏線の提示・発見といった過程を経て、最後に真相が明らかになります。この一般的な手法を逆手にとって、最初に伏線たちに迷走させておいて、最後に何が謎だったのかを明示するという、いわば検算的な発想から、この手法は時々ミステリ作家に好まれて用いられるのだと思います。いわば、ミステリ作家の裏芸といえるでしょう。 閑話休題ですが、私は別に本書をミステリだと思ってるわけではなく、むしろリズミカルな文体をリラックスして読んで欲しいのでミステリだと思われては困るわけですが、にもかかわらずミステリを出汁に無駄話をしたのにはそれなりに理由があります。 本書は5人の登場人物たちがそれぞれの抱える秘密と向き合うストーリーです。5人の誰が主人公ということもなく、逆に言えば5人全員が主人公だともいえます。このバランスは絶妙なものがあります。ですから、私みたいな凡人は、「だったら短編(あるいは連作短編)にすればいいんじゃん?」と最初のうちは思ったりもしました。でも違うのです。この手のクロッシング(←即興の怪しい造語)がミステリで使われるときに”謎”という中心軸があるように、本書にはカミングアウトの対象となる”秘密”があります。もちろん、秘密は各人それぞれですし、背負ってるものも当然違います。でも、それらをカミングアウトするためには、物語の交錯がどうしても必要なのです。決して形式が先にありきなわけではなく、それでいてシッカリした形式で書かれているからこそ、中には重いテーマもあるのですが、にもかかわらず安心して楽しく読むことができます。 で、物語の交錯が必然な理由ですが、それを語ろうとすると本書のラストの方のある登場人物の独白できちんと説明されていまして、ばらしちゃうのも野暮だと思うので、未読の方は騙されたと思って読んでみて下さい。それでも、ちょっとだけ説明しますと、「王様の耳はロバの耳!」と穴の中に叫んでみても、それだけじゃカミングアウトにはならない、ということでしょう。 カミングアウトという言葉が一般に広まったのは、おそらく1980年代の後半じゃないかと思います。同性愛、あるいは薬害エイズ問題に付随して広まった言葉ですから、その当時に”カミングアウト”といったらそれなりに重い意味が込められていました。 それから時代も経ちまして、そうした問題もそれなりに社会に浸透し、それらに対する無知や偏見もゼロとはいかなくとも随分と解消されたはず(そうだと思いたい)で、それとともにカミングアウトという言葉自体も限定的な意味から開放されて、それまでと比べて軽い意味で広く用いることができるようになりました。 本書のあとがきで、作者は以下のように述べてます。 読んでスカッとする話が書きたいな。 そう思ったのがこの物語を書くきっかけでした。 ”秘密”というのは、だれにでもあることだと思います。 逆にどんな偉い人も、 どんなかしこい人も、 秘密をうちあけることができないという悩みから解放されることがありません。 だから、フィクションの世界でそれをやろう。そして、スカッとなってもらって、『あーおもしろかった!』と言ってもらって……。 そして、明日もちょっとだけがんばるか。 そんなふうに思っていただけたら、私の思うツボなわけです。 というコンセプトの本書ですが、もちろん人それぞれだとは思いますけど、私はとても爽快な気分になれました。バラバラのストーリーをつなげて収束して弾けさせる一連の流れもそうですし、章題もシャレてるし、粋なセリフも好印象です。てゆーか、鵜月が美味しすぎです(笑)。 正直、最初のさちみのあっけらかんとした援助交際のやりとりはちと重いですし、他にも単純に楽しいとは言い難い部分もしっかりあるのですが、それでも、充実した時間を過ごせる面白い一冊です。 |