死者は黄泉が得る(DEATH BELONGS TO THE DEAD)
著者:西澤保彦(にしざわ・やすひこ)
出版:講談社文庫
初刊:1997
装丁:カバーデザイン 松本美紀
定価:667円+税
ISBN4−06−273089−8
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[あらすじ]
 周囲から隔絶された死者が甦る装置のある館に暮らす、”生ける屍”となった女性たちのもとに謎の女性が訪ねてきた。それは死後の物語。
 その隣りの街では複雑な人間関係を背景にした連続殺人事件が発生していた。それは生前の物語。
 死者と生者の二つの物語が交錯するとき、意外な真実が明らかになる……。



[CAUTION! ネタバレ注意! ってゆーか、本書は驚愕の真相の是非を「ホントにこれでいいの?」って確かめ合うタイプだと思うので。]

 本書は山口雅也の『生ける屍の死』の影響を受けて書かれたものであり、そのことは著者自身が公言しています。もっとも、基本アイデアは共通かもしれませんが、物語の雰囲気や仕掛け、真相は全然違いますから面白いですね。
 また、タイトルはジョン・ディクスン・カーの『死者はよみがえる(原題:TO WAKE THE DEAD)』(創元推理文庫)をもじったものでしょうが、そっちとはタイトル以上の関係はないみたいですね。

 物語は、死後と生前の二つのパートに分かれています。
 ”死後”の物語は死者蘇生装置の仕組み、分かっていることと分かっていないことといったSFミステリに不可欠なルール説明を伴った、”生ける屍”たちの事件が語られていきます。”生ける屍”となった彼女たちは、その過程で生前の記憶を失っているおり、また死者である以上、俗世間とは関わりのない生活を送っているせいもあって、淡々とした感じで物語は進んでいきます。

 一方、”生前”の物語では、複雑な人間関係を背景にした連続殺人事件が発生します。主な登場人物は大学時代の同級生なわけですが、これが実は非常にドロドロした関係にあるわけで、死後の物語のドライな雰囲気とは対照的でとても面白いです。

 二つの物語がクロスオーヴァーのパートでつながるわけですが、ここで明らかになった真実は確かに意外でした。てっきり、死後のパートは過去に遡っているものとばかり思っていたのですが、実は記述の通りの順番で時間が進行していたという、時間軸を錯誤させる叙述トリックが仕掛けられていたというわけです。それというのも、時間の進行を物語に登場する人間の数にかからせていたからこそ可能だったわけで、甦りにおける個性の喪失が仕掛けの要点だったわけです。
 登場人物の個性の喪失は、当然、人の属性を錯誤させる叙述トリックの仕掛けが用意されていることが予想されるわけで、物語のクライマックスではまさに二人の女性のアイデンティティをかけた闘いが推理合戦となって表出します。
 叙述トリックを大別すると、人間の属性を錯誤させるか、時間の流れを錯誤させるか、という二つに分けることができます(→アヒルと鴨のコインロッカーの書評[ネタバレ]でもこの点について触れています)。で、本書はこの二つを大胆にも組み合わせたものだといえます。実に大胆かつ巧妙な仕掛けです。
 ちなみに、上記の叙述トリックの分類ですが、安孫子武丸の『小説たけまる増刊号(→Amazon)』(集英社)所収の小論、『叙述トリック試論』により詳しく書かれています。ミステリ作家の言葉として重みがありますし、興味のある方は是非参考になさって下さい。

 で、真相がすべて明らかになったと思ったら、エピローグの最後の一行を読んでビックリ! 一体どういうこと???
 物理的な面を考えてみますと、インタールードで遠出をして墓暴きをすることがあると書かれていますので、ジュディがいたとしてもあり得ないことではありません。ってゆーか、こんな伏線になってたとは(笑)。
 タイトルが暗示する死者の甦りですが、一義的には死者蘇生装置のことでしょうし、この装置が物語の核にあることは間違いないです。
 しかし、真の甦りは叙述トリックによるジュディの甦りです。私も含めて読者は当然死んだものと思ったことでしょう。実際死んだし(笑)。それだけに、この真相は混乱半分の驚愕半分でした。死者蘇生装置についての由来等の言及が少ないのは読み終わってみれば当然のことで、ミステリ的には蘇生装置はあくまで従であって主ではないからです。とはいえ、ちょっとくらい説明っぽいことがあっても良かったとは思いますが。
 クリスティンがジュディのことをミシェルだと思わせようとした動機ですが、おそらく、クリスティンは結婚したマーカスのことを軽蔑しながらも、マーカスの方も死んだジュディのことを忘れられず、そんなわけでクリスティンにはジュディに対する嫉妬の気持ちがあってそうさせたのではないかと思います。推量に推量を重ねた結果ですが。
 ですから、ご自身の読みとアイヨシの読みと、その他にもいろんな方の読みとを比べてみて楽しまれるのがよいかと思います。

 そんなわけで、本書は外連味あふれた問題作です。”小説”としてはあまり楽しめないかもしれませんが、”ミステリ的な構造”は存分に楽しめると思うので、復刊されることを切に願います。

 ちなみに、著者の文庫版あとがきによれば、ノベルス版が刊行された際の「高卒のプレイヤーがプロのフットボールチームに入れるようなシステムは確立されていないはず」という指摘を受けて最低限の修正が加わっているとのことです。
 実際に読み比べてみましたところ、

●ノベルス版p41〜42
ジェイクはプロとして成功しなかった。芽が出る前に怪我をして、引退に追い込まれたからである。
●文庫版p52
ジェイクはプロ選手には、ついになれなかった。某大学チームにスカウトされたのだが、芽が出る前に怪我をして、中退に追い込まれたからである。

(両者とも第一刷から引用)

 といった修正がなされていましたが、それ以上の修正はないと著者自身が文庫版あとがきで述べています。ミステリ的には全く問題のない修正です。従いまして、古本屋で本書をお探しの方はノベルスでも文庫でも手に入れやすい方をお求めになれば大丈夫です。



●参照推奨書評
「幻影の書庫」さんの書評(ネタバレ)
「黄金の羊毛亭」さんの書評(ネタバレ)


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