| 法律人工知能―法的知識の解明と法的推論の実現― |
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編者代表:吉野一(よしの・はじめ) 出版:創成社 初刊:2000 装丁:カバー 駒崎元宏 定価:2980円+税 ISBN4−7944−4030−8 |
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学術書です。 SF小説やマンガなどで、ロボットが日常生活に溶け込んでいる未来世界が描かれたりしています。歩いたり物を持ったりとか、そういう機械的な動作面においては、HONDAのASIMOみたいにかなり進歩しています。 しかし、鉄腕アトムみたいな世界をイメージするとなると、いくら人間みたいに動けるようなものができたとしてもそれだけでは不十分です。人間社会で生活するためには社会のルールを認識してそれにそった行動ができるようにならなければなりません。そうしたルールを人工知能の実現の端緒となり得る可能性を秘めた研究書が本書です。 一体どんな内容なのか? 基本的には訳分かんないですが(笑)、とりあえず目次を抜粋してみます。 T はじめに U 法律人工知能をいかにして実現するのか V 法的知識の一般的構造の解明 V―1 法的知識の基本構造 V―2 法の適用における条文主義と判例主義 V―3 民事事件における裁判官の法律判断と事案評価 ―「スジ」「スワリ」をてがかりに― V―4 交通事故損害賠償額の算定における知識と推論熟達者と初心者の比較 V―5 法律エキスパートシステムからの哲学的な示唆 W 国連売買条約の知識構造の解明 W―1 なぜ国連売買条約か W―2 国際動産売買の説例とその解法 W―3 国連売買条約における契約法の知識構造 W―4 日本民法,国連売買条約,UNIDROIT,ヨーロッパ契約法原則の知識構造の比較 W―5 信義則をめぐる背景知識の体系的整理 X 法律知識ベースの構築 X―1 法律知識ベースの構築とは X―2 法的知識の表現方法 ―論理流れ図及び複合的述語論理による法的知識の表現― X―3 法的知識の論理による表現 X―4 国連売買条約の論理流れ図 X―5 国連売買条約の知識ベースの構築 X―6 論理法学の海上交通法知識ベース構築への応用 Y 法律エキスパートシステムのソフトウェア構築 Y―1 法律エキスパートシステムのソフトウェア構築の概要 Y―2 法律エキスパートシステム プロトタイプ Y―3 法律流れ図システム Y―4 自然言語インターフェース ―論理式から日本語文への変換― Y―5 法的正当化の推論機構 Y―6 ファジィな法的概念とファジィ推論システム Y―7 足りない法的事実をコンピュータはどう発見するのか Y―8 法的論争システム Y―9 法の目的に適った法的類推の実現 Y―10 法律概念の階層構造を構築支援するシステム Z おわりに 「T はじめに」で、本書の目的と執筆された経緯が記されています。 本書の目的はずばり法律エキスパートシステムの開発です。既存の法律データベースとの違いはデータベースが結論を出力するだけであるのに対し、エキスパートは結論に至るまでの推論過程、その根拠、法体系までを示してくれる点にあります。 こうしたシステムを開発するために文部省科学研究費重点領域研究『法律エキスパートシステムの開発研究―法的知識構造の解明と法的推論の実現』が平成5年度から平成9年度にわたって遂行されてきて、本書はその研究成果の主要部分を一冊にまとめたのが本書ということになります。 「U 法律人工知能をいかにして実現するのか」では、法律人工知能とは何かが示され、その実現のための研究とアプローチの仕方について記されています。 人間の知能を機械の上で実現するためにはよいのか。法律分野を対象としたエキスパートシステムを開発するためには、法的推論システム(=法的判断システム)を構築しなければなりません。そのためには、専門家としての法律家の知識をコンピュータに登載する必要があります。その知識とは単に制定化・文書化されているもののみならず、法律家が暗黙裡に了解している知識も必要とされるため、そうした暗黙の知識の集積も自ずから要求されることになります。さらに、実定法の知識構造の解明・分析も当然必要とされます。 そうして解明された(あるいは解明されるであろう)法的知識構造をいかに法律知識ベースとしてコンピュータに登載するかという法律知識ベースの構築と、単に結論を示すだけでなく、推論過程や根拠までも示す推論エンジン他の構築といった、ソフトウェアの構築が問題となります。 「V 法的知識の一般的構造の解明」では、法的知識の基本構造の解明と、裁判官を始めとする法律の専門家が法律問題の事案の解決のためにどのように思考しているのかを分析しています。 法とは何か? とは法学において永遠かつ究極のテーマですが、法律人工知能の開発においての法とは「文」です。文は記号から成り立っています。論理法学とは、記号、記号を用いる人、記号の指示するもの、この三者の観点から文と文の外の世界との関係を説明しようとします。 このとき、「意味としての法規範」は存在しないと考えます。「規範」と「事実」の区別に関する哲学的議論もここでは完全に無視されます。恐ろしいですね(笑)。そうして記号化された法文はさらに解釈され、記述された事実と照会されて、法的決定(効果)が導き出されます。 一般的な法的知識の基本構造は論理法学において上記のように説明できますが、しかし実際の裁判官はもっと複雑というか適当というか、何でもかんでも法文どおりに判決を下すというようなことはしていません。既存の法規は判例どおりに考えて導きだされる解答を実際の事案に適用すると不都合が生じるような感覚、多くの裁判官が「スジ」「スワリ」というような概念を用いて説明するような判断能力(「リーガル・マインド」とほぼ同義か?)の解明を通して、裁判官という法律専門家の判断の構造の解明が試みられています。 論理法学的な思考によって得られた結論が具体的事例において妥当性を欠くと判断された場合に修正を施す思考方法、つまり視線の往復がどのようになされているのか? その修正理論を生成、あるいは発見できれば法的判断の恣意性・振幅は限りなくゼロとなり安定した法的判断が望めることにもつながります。 この章では、さらに裁判官の社会的属性(弁護士経験の有無・性差・年齢)といったものが法的判断にどのくらい影響するものなのかといった点まで調査がなされています。 「W 国連売買条約の知識構造の解明」では、要件事実に法を適用して法的解決を行なうという一連の法的判断について、国連売買条約をその対象として具体的に検討することで明らかにしようとしています。 国連売買条約を研究対象とした理由として、英米法と大陸法との垣根を越えて成立した普遍性を有する条約であること、渉外実務で多用されているということ、さまざまな言語に翻訳されているので各国の契約法の特色を理解することも可能になるということ、等が挙げられています。 アイヨシも国連売買条約なんてサッパリ分かりませんが、本書のこの章はむしろ国連売買条約の教科書としてむしろ格好のものなんじゃないかと思います(笑)。 で、「X 法律知識ベースの構築」と「Y 法律エキスパートシステムのソフトウェア構築」ですが、文系人間のアイヨシには、CPFやらシンタックスやらセマンティックスやらラムダオペレータやらモンターギュ意味論やらノードやらエッジやら、もう何が何やら心底サッパリ分かりません(涙)。とにかく難しいことが書かれてますが、とにもかくにも実用化にはまだまだ課題があるようです(コラコラ)。 そんなわけで、ロボット三原則を理解するような人口知能が生まれるのは先のことのようですが、科学技術の進歩には凄まじいものがありますから、ひょっとしたら意外と早く実現しちゃうのかもしれないし、そうしたら本書はまさに法律人工知能のプロトタイプを示した本ということになります。 ただ、個人的には実現は遠い遠い未来のことになるんじゃないかと思いますが、それならそれでSFにおける疑似科学を理解したりいちゃもんつけたりするときの参考書として本書は十分に使えます(笑)。 もっとも、国民主権の基本は人による統治でしょうから、人工知能の法的判断がものすごく権威を持つようになっちゃったら国民主権じゃなくなっちゃうかもしれませんが、そうした社会を想像するのもそれなりに楽しいもんです。 本書においては法は論理法学によって判断されることを基本としていますが、現実にはとても論理的とはいえないような判断もなされています。法律人工知能が実現したら、例えば憲法9条と自衛隊との関係をどのように理論付けするのでしょうか? とても興味があります(笑)。 解釈の政治性・恣意性のみならず、そもそも覚えなければならない知識・条文は膨大です。法律は専門家によって独占されている現状で、一般市民にとっては敷居の高いものになってしまっています。法律人工知能の研究は、法律家と市民との架け橋として機能していくことが現実的には期待し得ると思います。研究の更なる発展が楽しみです。 |