少女には向かない職業
著者:桜庭一樹(さくらば・かずき)
出版:東京創元社
初刊:2005
装丁:デザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ。
定価:1400円+税
ISBN4−488−01719−3

[あらすじ]
 中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した。
 夏休みにひとり。それと、冬休みにもうひとり。
 武器はひとつめのときは悪意で、もうひとつめのときはバトルアックスだった。それであたしが思ったのは、殺人者というのはつくづく、少女には向かない職業だということだ。あたしにはまじでわからない。どうして少年犯罪とかで捕まる同世代の男の子――しかもマッチョな体育会系じゃなくてどっちかっていうとヒョロメガネ――が、ぜんぜん飄々としてぶるってないのか。
 あれがゲーム脳?
 でも、あたしもゲームやってるのに。
(本書p7より)



CAUTION! ネタバレ注意!
 また、途中からP.D.ジェイムズの『女には向かない職業』(ハヤカワ文庫)のネタ(ぼかしてますが)にも触れますので、未読の方はご注意下さい。


 物語の冒頭で結末を暗示するというのは『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』のときと同じ手法で、加えて本書の場合は倒叙ミステリ(犯人側の視点で書かれたミステリ)であることも早々と表明しています。
 さらに、物語の内容自体も、閉塞的な状況に置かれた少女たちのやり切れない衝動を描いているという点で、両者はかなり近いものがあります。個人差はあると思いますが、読者が受ける衝撃という点ではおそらく『砂糖菓子〜』の方が上だと思います。ただ、本書の場合は東京創元社の《ミステリ・フロンティア》というレーベルから刊行されているとおり、本格ミステリとして非常に優れています。

 主人公であり殺人者でもある少女の年齢が十三歳なのを見て、刑法41条に「十四歳に満たない者の行為は、罰しない」って定められているから、本書の場合は無罪だな、と冷めたことをすぐに考えてしまうのは読者として不幸なのかもしれませんが(笑)、でも、本書のポイントはここにあります。ずばり、本書のテーマは完全犯罪なのです。

 主人公である大西葵のとった行動を順次見ていきましょう。
 まず、最初に父親を殺した行為ですが、これは本格ミステリでいうところの江戸川乱歩が命名した『プロバビリティの犯罪』――危険性が少く確実性も乏しいですが疑われることがほとんどない行為――に当たります。実際、薬を隠したことは確かに問題ですが、しかしこの状況下では、仮に真実が露見したとしても殺人罪に問われることはないと思います。
 次に、冷凍マグロという変わった凶器で殺そうとしますが、これはトリックによる完全犯罪の実現です。つまり、立派な殺人行為だけどばれなきゃ犯罪じゃないというもので、ほとんどのミステリがこの場合に該当します。本書の場合は作中でも述べられてるとおりダメダメな計画ですが。
 そして、最後の殺人行為ですが、途中まで(静香が刺すところまで)は正当防衛でしょう。しかし、とどめの一撃は、小難しいことをいえば過剰防衛なのかもしれませんが、逃れようのない立派な殺人行為です。
 ですけれど、葵は十三歳ですから犯罪者には該当しません。したがって、完全犯罪です。しかし作中では彼女たちが自らの犯罪者としての年齢を自覚している描写はまったくなく、完全犯罪になってしまったのは結果的なものにすぎません。殺人計画や失踪宣告の知識はあるのに、そんな基本的なところに思いが至ってないというところが、やはり殺人者には向いてないということなのでしょう。ですから、読者としては「この犯罪を完全ならしめてしまったもの」について考えることになり、そうすると、葵や静香の置かれた状況とか気持ちとか、そうしたものに改めて思いをはせることになる、という実に巧みな構成になってます(多分)。中でも、ゲームの位置づけ・扱われ方が絶妙だと思いました。

注:以下、『女には向かない職業』のネタに触れます。

 タイトル『少女には向かない職業』ですが、これは言わずと知れたP.D.ジェイムズの『女には向かない職業』(ハヤカワ文庫)が元ネタです。ただ、冒頭で示される”あらすじ”を読む限りでは、「全然違うよ!」と思いますが(笑)、読み終わってみるとそれなりに関連性があることが分かります。
 大西葵の近くにいたには宮乃下静香(殺人者)だったので、殺人者として行動しますが、最後の方でその静香が涙を流します。そして、最後には犯罪の完全性を放棄して警察に自首することになります。これは『女には〜』と裏かつ逆(つまり対偶)の展開だといえます。
 また、浩一郎と静香の遺産相続のための策略は『女には〜』の真相をアレンジしたものになっていますから、ミステリ読みにとってはマニア心をくすぐられるうれしいサービスでもあります。

 と、まあこんな感じてミステリ的な分析をしてみましたが、こういう読み方をすれば読んでた時の痛々しい気分も少しは和らぐというもんです。
 蛇足ですが、読んでてひぐらしのく声が聞こえて仕方ありませんでした(ナンノコッチャ)。



※ちなみに、作中に出てくる武器屋さんのサイト→山海堂
 てゆーか、ホントにあるのかよ(笑)。
 今度行ってみようかな。アイヨシの住んでるところからはちょっと遠いけど。バトルアックスはあっても買いませんけどね(笑)。


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