| カブト虫殺人事件 |
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| 原題:THE SCARAB NURDER CASE 著者:ヴァン・ダイン(S.S. Van Dine) 訳者:井上勇(いのうえ・いさむ) 出版:創元推理文庫 装丁:イラスト 桶本康文 初刊:1930 定価:680円+税 ISBN4−488−10305−7 |
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[あらすじ] エジプト博物館内で殺人事件が発生したが、死体とその発見場所からは、犯人としてある特定の人物を指摘する証拠がいくつも発見された。事件はすぐに解決するかと思われたが、しかし、この事件にたまたま最初から関与することになったファイロ・ヴァンスは、真犯人の恐るべき意図を見抜いていた……。 〔Caution!! ネタばれ注意。〕 本書の原題は、「THE SCARAB NURDER CASE」ですから、シンプルに翻訳すると「スカラベ殺人事件」になります。しかし、スカラベってのは一般には意味が通じないでしょうから更に訳す必要がありますが、スカラベというのは”糞ころがし”のことです。それをそのまま「糞ころがし殺人事件」としちゃったら、どんなお笑いミステリだと思われてしまいます(笑)。そこで、糞ころがしは甲虫類だし、カブト虫ってことで、『カブト虫殺人事件』というタイトルになったんだと思います。 しかし、個人的には許せなくって、多少分かり難かろうが響きが悪くなろうが、「スカラベ殺人事件」で通すべきだったと思います。 もちろん、カブト虫とスカラベじゃ全然違うよ、というのもありますが、それだけじゃありません。 古代エジプトでは、護符としてスカラベがよくモチーフとして用いられています。 それは、スカラベの幼虫が糞の中から孵化することから、古代エジプト人はスカラベには再生能力あると考え、冥界を通って毎日復活する太陽神のシンボルとして扱っていたと考えられています。 このことは、そのまま本書のプロットを表しています。本書の真犯人は、わざと自分にとって都合の悪い証拠を現場に残すことでまず自分に疑いの目を向け逮捕され、しかしその後更なる証拠の発見によって自分ではない特定の人物を真犯人とすることで容疑から逃れるという、まさに古代エジプトにおける太陽神の如き”死と再生”を目論んだのです。 ヴァンスは犯人のそうした狙いに気付くことで冤罪の発生は防ぐことはできましたが、真犯人の逮捕にまでは至りません。曰く、「理論だけで人を逮捕するわけにはゆかない」(本書p387)という事態に陥ります。出口のない状況の中、ヴァンスは太陽神に対抗するために復讐神の力を借りることになります(未読の方にはナンノコッチャと思われるでしょうが、本書はオカルト本とは対極に位置していますので、その点は誤解なきように)。 そうした趣向を考えると、本書のタイトルは『カブト虫殺人事件』じゃ絶対にダメで、『スカラベ殺人事件』じゃなきゃならないと思うのです。 とはいえ、邦訳のタイトルに不満はあっても、内容には大満足です。虚実入り混じった二重三重もの論理の展開にエジプト学まで加わって、その過剰なまでに知的な雰囲気は、やはり古き良きミステリとして語り継がれるに値する傑作だと思います。 |