| 魔術探偵スラクサス |
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| 原題:THRAXAS 著者:マーティン・スコット(Martin Scott) 訳者:内田昌之(うちだ・まさゆき) 出版:ハヤカワ文庫 装丁:イラスト 大本海図 初刊:1999 定価:6800円+税 ISBN4−15−020306−7 |
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[あらすじ] 魔法の国トゥライの国で探偵をやっているスラクサスのもとに仕事が舞い込んできた。それは、王女が他国の外交官に出した恋文を回収してくるという単純なスキャンダルのもみ消しのように思えた。 しかし、手紙があると思われた場所には何故か死体があって、スラクサスは殺人事件の容疑者として投獄されてしまう。何とか牢屋から出させてもらったが事件の真相は解明しなければならず、そんなときに限ってエルフの赤布を探してくれだの息子の無実を晴らしてくれだの仕事が次から次へとやってきて、借金で首が回らないので引き受けないわけには行かず、何だか分からないけど次から次へと知らない奴に命を狙われて……。一体どうなってるんだ? タイトルに”魔術探偵”とありますが、この場合の探偵はミステリ的な意味の探偵ではなくハードボイルド的なものです。そんなにシリアスなものではなく、とか言いながら次から次へと死体があがるので、よく考えると一大事なのですが(笑)、主人公が40過ぎの中年で太鼓腹で大酒呑みで、妻には年下のエルフと一緒に駆け落ちされちゃって、ギャンブルの借金で首が回らず仕事もあまりないしがない私立探偵となれば、コミカルでないはずがないのです。 魔術探偵ですから、舞台は当然ファンタジー世界で、実際、主人公であるスラクサスも魔法が使えます。ただし、この世界の魔法は、他のファンタジーものに比べると万能性が低いです。というのも、使える回数がとても限られているからです。扉を開けたり閉めたりするようなごくごく簡単な魔法ならなんの不自由もなく使うことができます。しかし、それ以上、例えば眠りの魔法というような、他のファンタジーならレベル1の魔術師でも使えるようなものですが、そうした強力な魔法を使おうと思ったら、事前に呪文を読んで覚えないといけません。なぜなら、一度使用すると忘れてしまうからです。D&Dのマジック・ユーザーのスクロール(巻物)のようなものといえば、分かる人には分かってもらい易いかもしれません。ほとんどの人には逆に分かってもらえない例えでしょうが(笑)。 しかも、スラクサスも含めてほとんどの魔術師は一度に一つの魔法しか覚えておくことができません。忘れたらまた呪文を読んで覚えなおすより他ありません。大魔術師であれば複数の魔法を覚えておくこともできますが、それでも四つが限度らしく、しかもそれはもう信じられない奇跡の所業です。 ですから、どんな魔法を使えるかという選択の問題と、魔法を使うタイミングがとても重要になります。その辺の駆け引きが戦闘での醍醐味ともなります。 とか言いながらも、やはり魔法が強力なものであることには変わりがなく(逆にいえば他のファンタジー世界の魔法が強力すぎるとも言える)、すべての魔法を無効にすることができる”エルフの赤布”というアイテムを巡って、スラクサスは複雑極まりない陰謀・策謀の交錯する事件に巻き込まれることになります。 この物語世界では、人間にエルフにオルク(=人間よりも少し大きくて力が強い。醜い。獰猛な戦士が多い。しかし頭は悪くない)という三つの種族が微妙な緊張関係にあります。人間とエルフが何となく友好関係にあるようですが、両者の間にだって互いに陰謀はあります。ちなみにスラクサスは人間です。 意外に珍しい点として、スラクサスが住んでいるトゥライの国は王がいてその下に議会があって、議会では二大政党を中心とした勢力争いがあって、さらには教会は独自の影響力があるというように、立憲君主制のような制度(そのものではない)が採られていることです。『指輪物語』を始めとするほとんどのハイ・ファンタジー(架空の世界を舞台とした物語)では絶対王制が採用されてていることを考えると、これは相当に珍しいということが言えます。何故でしょうね? 架空の世界の物語なんですから、国の制度だって自由にして良いと思うのですが。多分、ファンタジーというのは子供の読む割合が比較的高いジャンルでしょうから、簡明な国家制度の方が受け入れられやすいというのはあると思います。また、日本で言えば時代劇には約束事がたくさんあるように、ファンタジーといったら古い絶対王制という暗黙のお約束みたいなものがあるのでしょうか? よく分かりませんが、どなたか検証・検討してみて下さい(笑)。 とにかく、本書はファンタジーでありながら絶対王制じゃなくて、ですから、ファンタジー世界における女性の権利とか、人間とエルフとオルクの混血児に対しての人種差別(?)とか、そうしたファンタジーらしからぬ要素がふんだんに取り入れられてて、そのミスマッチがとても面白いです。個人的にはもっと踏み込んでもらいたかったくらいです(笑)。相棒の女剣士マクリがとてもいい味出してます。 その他にも、ドワといういかがわしい麻薬とかパンダ外交ならぬドラゴン外交、強力で邪悪な魔法使いに教会内の権力争い、果ては暗殺師ギルドまで絡んできて、もうファンタジー要素が適当にぶっこんであるという感じなので、ダメな人にはダメかもしれませんが、陰謀ごとにきちんとした背景があるので、めちゃくちゃになってもそれを解き明かす楽しみはあります。しかしながら、結局最後には訳の分からない大魔法でめちゃくちゃになるのですが(笑)。 そんなわけで、まだまだこれから面白くなりそうなシリーズで、実際本国(イギリス)では全五冊のシリーズものとして出ているそうですが、日本では2002年1月に本書が出てから続編は無し……。む〜。一応、2000年に世界幻想文学大賞を受賞してはいるのですが……。 |