モノクロームの残映

著者:麻生俊平(あそう・しゅんぺい)
出版:富士見ファンタジア文庫
初刊:1997
装丁:イラスト 弘司
定価:620円+税
ISBN4−8291−2706−6


[あらすじ]
 TOGO産業の手下として立ちはだかった丈太郎に対し、非情になりきれなかった遼は闘いに敗れ、囚われの身になってしまう。
 捕虜になった遼に対して、丈太郎は、自分を信じてTOGO産業のセミナーを受けるように勧める。丈太郎の真意は一体…?
 一方、それを知った万里絵は、遼を救出するために、サバイバル技術を駆使し、孤独な闘いを開始する。TOGO産業編、ついに完結!



孤影が去った後に、しばらくは残映――名残という意味もあります――を見ていたい。そんな気持ちを込めてみました。
(作者の「あとがき」p358より)


 ちっ。やっぱり表返りやがったか(笑)。
 いや、丈太郎のことですけどね。前作であんなにかっこいい寝返りをみせてたので、このままの路線でいってくれればと、はかない期待をしてました。
 でも、そんなことあるはずないということも予想してましたからね。言ってる程ガッカリしているわけでもありません。『るろうに剣心』で、所詮は薫を殺せないのと同じようなものでしょう(コラコラ)。

 本書の読みどころは、何と言っても第二章の「氷澄丈太郎最終講義」でしょう。
 ここでの丈太郎と裏次郎のやりとりは、とりあえずのクライマックスとしては印象的です。
 裏次郎は、正常な進歩を有する知性体なら、必ず到達する最終段階がイェマドであるとし、そこに到達しない今世の人間を軽蔑しています。そして、今の文明を、”ザンヤルマの剣”による滅亡の真実を知るための実験素材として扱っています。
 対して、丈太郎は、自分だけの欲望の充足にしか興味を持たず、他人を視界に入れず、社会とは縁を切って自分ひとりだけの世界に籠ることを最上の喜びにする精神こそがイェマドであると、これまで出てきたイェマドの遺産の性質(万能なくせに他人とのコミュニケーションのための道具がない、完全オーダーメイド)ということから導き出します。
 そして、今の文明がイェマドの段階に到達しつつあるとし、そこから、今の文明をイェマドの如く滅びの段階に進ませないために闘うことを決意し、裏次郎と対峙します。
 過去に生きる歴史学者と、未来に生きる歴史学者としての分水嶺として、この章はとても重要…だと思ったのです。
 ただ、裏次郎と丈太郎の闘い(もっと言えば、シリーズ通しての裏次郎の存在感と丈太郎の出番)は、結局ここで終わっちゃいました。シリーズ読了後から考えると、物足りなさは否めません。少なくとも、”ザンヤルマ”の真実についての闘いはあっても良かったと思うのですが…。講義自体が実はザンヤルマの剣の特殊性とその真実の伏線になっているのがポイントではありますが。
 また、講義の内容自体も、よく考えるとちょっと変かも(いや、勢いで読むところなんですけどね、ここは)。
 現代社会とイェマドの文明を同化することで、ラストで明らかになるザンヤルマの真実をより効果的にする意図があったものと思われます。しかし、どうなんでしょうね。個人情報の徹底管理に伴うアイテムのオーダーメイド化というのは確かに進んできてるとは思いますが、携帯電話やインターネットの発達というのはコミュニケーションの促進を図ってますから、ちょっと違ってきてると思うのですが。
 もっとも、ネット上での匿名の当然性はバーチャルとリアルの断絶を生んでいる、と考えることもできなくもないですが、こうして現にネット上で書評を発表したりしてますと、作中でのイェマドと現代社会の同一性というのにはあまり説得力を感じられません。だからといって、この作品がネットの発達に希望を見出している、というスタンスで書かれているわけではまったくなく、そっち方向の主義主張があるわけでもないので、正直物足りなさを感じずにはいられません。イェマドというものについての具体的な言及がないのも一因だと思いますが、とにかく弱い。
 これがあるから”社会派”って怖いんですよね。つまり、現実と作品とのずれが生じたときに、作中でそれなりにSFみたいに思考実験ともいうべき薀蓄が満載されていれば、多少ずれがあったとしても問題ない(むしろ面白い)のですが、その辺を端折ってるので、ちょっと擁護のしようがないのです。
 付言しますと、上記の不満は本作を読んでたときのものではありません。あくまで、シリーズを最後まで読んだ後の、後付け的なものです。読んでたときは面白かったです。

 で、TOGO産業編のオチのつけ方ですが、結局、私怨なんですよね。利益追求の考え方を全面的に否定するわけには、資本主義社会に生きちゃってるとできないのでしょう。ま、企業の社会的責任論というのも法理論として常識化しつつありますから、そういうことよりも、目的は手段を正当化しない、という話なんだと思います。

 …もしかして、不満ばっかり言ってるように読めちゃいますか?(笑) だとしたらフォローしとかないと(汗)。
 本書は面白かったんですよ。果林に言うことを聞かせるために弱みに付け込んだ万里絵のやり口とか悪趣味な部分もそうですが、闘いの幕間で、「自分の限界に挑んだんだ。ぎくしゃくするのも、心が筋肉痛を起こしているようなものさ」(p274)なんて言葉がとても印象に残ってます。このシリーズって、やっぱり肉体的なのより精神的なダメージの描写が主なんだなぁ、とつくづく感じました。

 ……もう一人のザンヤルマの剣士? 誰ですかそれは(笑)。



●登場した”遺産”

万能カッター
 三日月型の金属の塊。
 どんなものでも、お好みのサイズ、あるいは重量、体積を等分したカッティングができる。神田川を殺害しようとした雑魚キャラ(本名:ゲオルグ)が使用者。

冷却システム
 透明な立方体。
 目標を瞬時に絶対零度まで冷却することができる。セイ・キーシャ部長を守っていた雑魚キャラが所有者。

加工装置
 赤い塗り箸のように見える二本の棒。
 目標物を粉末化する。雑魚キャラが所有者。

工作装置
 手袋。
 長い指。巨大な手。小さな指。って具体的に何ができる遺産なのかサッパリ分かりません(笑)。雑魚キャラが所有者。


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