イリーガルの孤影

著者:麻生俊平(あそう・しゅんぺい)
出版:富士見ファンタジア文庫
初刊:1996
装丁:イラスト 弘司
定価:583円+税
ISBN4−8291−2672−8


[あらすじ]
 表向きは特に目立つこともなく新興企業として利益を上げているTOGO産業は、その裏では遺産を組織的に用いて非合法な活動を行うことで利益を追求していた。
 TOGO産業の存在を知った遼は闘うことを決意するが、戦闘のプロの集団を相手に動こうにも動けず、かつてない神経戦を強いられることになる。
 一方、財奥との闘いに破れ守護神を奪われた丈太郎はその奪還と復讐を決意するが、財奥に先の先まで動きを読まれ、確実に追い詰められて行く……。
 


それでも、麻生は繰り返します。『ザンヤルマの剣士』は愛と信頼と希望の物語だと。
(作者の「あとがき」p336より)


 うん。素晴らしい。本作の主人公は間違いなく丈太郎です。
 前作で敗北して守護神を奪われて、復讐を誓うも逆に罠にはめられ捕まって、レクチャーという名の洗脳まがいの教育を受けて精神的にギリギリのところまで追い詰められて、そうして自分を倒した憎むべき相手であるはずの財奥から「裏次郎を倒すために手を組まないか」と言われ、ついに寝返って財奥から闘いの手ほどきを受ける。そして、かつての仲間だった水緒美や遼のことをTOGO産業に売って、遼を罠にかけて呼び出して闘いを挑む…。もう完璧です。ここまでクールな裏切りは滅多に見られるもんじゃありません。キザで二枚目という共感不能なキャラだったのが、一気に大好きなキャラに変貌しました(笑)。そうなる過程における丈太郎の心理描写というのがホントに容赦無用のえげつなさで、ホントに凄いと思いました。
 一方、自分を取り戻すためにアメリカに渡った万里絵の心境は正直理解に苦しむのですが、信じる遼と裏切る丈太郎の二人をクローズアップするためには、いないくらいで丁度いいでしょう(笑)。

 果林と神田川くんの恋愛は唐突だと思うのですが、離れてすれ違って裏切られて、というのが本作では多いので、バランスがとれてるようでそんなに気にはなりませんでした。どうせ悲恋だし。

 特定の個人の遺産相続人が相手ではないので、今まで見たいな相続人の抱えている心の闇との闘いはないのですが、営利企業の掲げる利益追求という思想を背景に組織的に攻撃を行ってくるTOGO産業はかなりの強敵です。利益追求のために殺人すらも肯定する、極端ながらも否定し切ることのできないその思想には暗澹とさせられますし、ホームレスをリンチする中学生とか、鬱な要素は相変わらずです。

 てなわけで、ストーリー展開としては本作がもっとも楽しめたのですが、シリーズとしての大きな問題点を残してしまいました。ラスボスである佐波木の影がいつまで経っても薄いままという、後々深刻化する問題点を…。



●登場した”遺産”

物体透過装置
 少し変わったデザインの銀色のペンダント。TOGO産業ではマルチダイバーと呼ばれている。
 世界と相続人の”位相”をずらすことで、物体を透過することができる。地面や壁を通り抜けることができ、上下左右に自由に移動できるが、通り抜けている間は光がないためにものを見ることもできず、呼吸もできないので場合によっては酸素ボンベなどが必要になる。物理的攻撃も透過することによって回避することができる。

手袋
 どんな隙間にも手を突っ込むことができ、そこでミクロの操作も可能になる。『フェアリースノウの狩人』で久留米の命を絶った遺産。
 財奥に二度目の敗北を喫しホームレスに身を落とした丈太郎は、この遺産で自動販売機や公衆電話の料金箱から小銭を盗んでいた。

コントローラー
 母機の形状は赤いバンダナ? 子機はアルミホイルをまとめて作ったような、ボルトを思わせる塊。
 対象に子機を取り付けることでその体を思い通りに操ることができる。「いくあてのない子守り歌」にでてきた動物コントロール装置に似ているが、意識まではコントロールすることはできず、おそらく対象の感覚をモニターすることもできない。


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