| ノーブルグレイの幻影 |
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著者:麻生俊平(あそう・しゅんぺい) 出版:富士見ファンタジア文庫 初刊:1994 装丁:イラスト 弘司 定価:650円+税 ISBN4−8291−2548−9 |
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[あらすじ] ザンヤルマの剣士として裏次郎のばらまいた遺産を破壊していくことを決意した矢神遼は、それから一ヶ月後、テレビ番組で異様な光景を目撃する。出演していたマジシャンが何の前触れもなく青い炎に包まれて、跡形も無く燃え尽くされてしまったのだ。 遺産が関わっているに違いないと思った遼は調査を開始しようとするが、そんなとき、厳重に保管していたはずのザンヤルマの剣を失ってしまう。マジシャンの異常焼死事件と剣の喪失は関係があるのか? だとしたら敵の目的は…? まず、ストーリーを考える段階から苦しかった。 (作者の「あとがき」p354より) 前作で見事「ザンヤルマの剣士」としての使命に目覚めた矢神遼はその力を使って、強気を挫き弱きを助け…なんてことにはなりません(笑)。 いきなり正体不明の相手に剣を奪われて、返ってきたと思ったらいきなり危機に見舞われて、剣を抜こうと思っても抜くことができずボロボロになり、さらにピンチになったら結局は剣に頼ってしまう自分の弱さに凹みます。始まってから3分の1で早くもこの有様です(笑)。 ザンヤルマの剣士としての使命に目覚めたといっても、前回は勢いでそんなこと言っちゃった、て部分も確かにありました。ですから、この作品によって遼に自らの持ってる力の大きさと危うさ、やれることとやりたいこと、やらなきゃいけないことを再確認させるのが目的なのでしょう。「あとがき」の作者の言葉、ぶっちゃけて言うと、状況にホイホイ流されちゃう主人公に納得がいかないのだ(p356)というのは、そういうことだと思います。 しかし、遼は内向的な性格ですから、そんな彼に状況に流されない主体性を要求するとなると懊悩苦悩がつきものですが、そんな陰に篭った内的葛藤こそがザンヤルマの醍醐味なのです(笑)。 今回の敵、秋月由美彦(本名:山下伸一)は、力を持ったが故に自分が正しいと思ったことにその力を使いはしますが、その正義感の偏向性ゆえに不幸を撒き散らすことになり、一方で力を持ったがゆえの孤独感から、ザンヤルマの剣という危険な武器を持つという近しい境遇にある矢神遼に接触します。 遼はそんな秋月を許すことができずに闘いますが、一方でそんな秋月に自らの姿を重ね合わせて思います。力があるという理由だけで闘ってはいけないのだと。じゃあ、どんな理由で闘ったのかといえば、友情未満の半端な気持ちというか同情というか、身も蓋もない言い方だとそうなりますが、遼自身もそれで良いとは思ってるわけでも多分なくて、ベストではないが見過ごすよりはベター、という程度だと思います。だからこそ、作品中では結構説教がましいセリフが往復するのですが、決して押し付けがましくはないのです。 秋月由美彦というのはありがちな敵キャラなのですが、これは遼がなるべきザンヤルマの剣士のアンチテーゼとして出されたものであり、作者が狙って作ったものです。才能によって強いられた道から逃れようとして、別の才能に溺れていった少年。過ちに対する後悔が生み出した、実際には存在しない少年――(p339〜340)という空疎なキャラを敵役に置くことで、相対した矢神遼に”中身”を求めたのです。 そんな秋月こと山本伸一がやさぐれた原因として、高校野球の連帯責任の理不尽さを持ってくる辺りが、悪趣味ながらもハイセンスだと思います(笑)。 そんなわけで、前作は第一話ですから、どうしても説明的、導入部的なものでしたが、本作はそうした設定を踏まえた上で、登場人物たちがどのように動いていくのかを示せたという意味で、本当の『ザンヤルマ剣士』シリーズが始まったと言えると思います。 単品として見ても、上記の他にも、捕まった万里絵がそれまでのライトノベルでは考えられないようなリアル(甘くはないが陰惨過ぎず)な拷問・尋問を受けそうになったり、そこからありえないサバイバル技術で脱出したり(笑)、テレキネシスが単純だけど露骨に強かったり(心臓や肺を停止!)と、印象に残っている箇所が多々あり、とても面白かったです。 しかし、シリーズ全体として見たときに、本作の敵キャラ、秋月由美彦と、これから登場するシリーズ通してのラスボス佐波木とのキャラのかぶり具合が、今後のシリーズの盛り上がりに微妙に水を差す結果になってしまったと個人的には思っていますが…。 ●登場した”遺産” 潜在能力開発装置 形状は野球のボールほどの大きさの球。入り組んだ機械装置を押しつぶして球にしたような印象。 秋月由美彦(山本伸一)はこの装置の教育によって、一ヶ月で自らの超能力を最大限にまで引き出すことができるようになった。 現代人の努力とか根性を否定する恐ろしい道具である(笑)。ちなみに、イェマド人は何でもできちゃう”守護神”を持っているので、彼らにとってはほとんど意味の無い道具である。 |