ザンヤルマの剣士

著者:麻生俊平(あそう・しゅんぺい)
出版:富士見ファンタジア文庫
初刊:1993
装丁:イラスト 弘司
定価:544円+税
ISBN4−8291−2485−7


[あらすじ]
 鵬翔学院高校2年生の矢神遼は、黒いスーツの男から奇妙な短剣を押し付けられた。「この短剣は、鞘から抜くことのできた人間に強大な力を与えてくれるそうだ」と言われて。
 その短剣はどうやっても抜けそうのない形状をしていたが、遼はあっさり抜くことができ、そして意識を失ってしまった。その日を境に、遼の周辺でバラバラ殺人事件が多発する。しかも、被害者は遼が不快に思った人間ばかりだった。
 無意識のうちに人を殺してしまったのではないかと怯える遼のもとに、再び黒いスーツの男が現れる…。



それにしても、この後、ストーリーはどう続くのでしょうか。
(作者の「あとがき」p299より)


 シリーズ1作目なので、どうしても設定の説明や登場人物の紹介などに文章を要してしまうところですが、なかなかどうして、端的かつスムーズにそうした作業は終了しています。
 絶版シリーズの書評なので、その辺のところを少々詳しくまとめて、後世にまで伝えておくことにしましょう(笑)。
 イェマドの遺産をばらまいている裏次郎は敵キャラです。やってることは、基本的にのび太に道具を与えているドラえもんのようなものです。未来の世界じゃなくてイェマドの世界からやってきました(正確には生き残り)。
 イェマドというのは、今の人類が発生する以前に栄えた宇宙規模の超高度古代文明です。その文明の遺産には、現代の知識では解明不可能な機能が備わっています。そんな文明がどうして滅んでしまったのかは謎に包まれていますが、”ザンヤルマの剣”の謎とともに、シリーズが先に進むにつれて徐々に明らかになっていきます。
 ドラえもんはのび太のためを思ってとても便利な道具を与えますが、のび太はいつも失敗ばかりします。ドラえもんはそんなときフォローしてくれますが、裏次郎にとってはそれこそが望みなので当然フォローはしません。そういう意味では、ドラえもんというよりは喪黒福造かも知れません。

 氷澄丈太郎と江間水緒美はそんな裏次郎に対立するイェマドの生き残りです。人類が愚かなのは認めるが、わざわざ遺産をばらまくようなことをする必要はないじゃないか、というわけで裏次郎と対立しています。ただし、この3者間にはもっと複雑な関係がありまして、それは次作以降で徐々に明らかになっていきます。ちなみに、表の顔として、丈太郎は遼と万里絵が通っている鵬翔高校の非常勤講師を、水緒美は骨董屋「冬扇堂」の主人をしています。

 朝霞万里絵と遼は鵬翔学院高校の2年生で従兄弟同士。万里絵はアメリカからの帰国子女で、サバイバル技術に長け、文武両道に秀でています。嫌な奴だ(笑)。好奇心も旺盛で、イェマドの遺産がらみの事件にも積極的に首をつっこみます。基本的に物騒なキャラといえるでしょう。そのスペックの高さゆえに、ときに対人関係において苦労しますが、表面上取り繕うことも上手ですが、それゆえにかえってこじれさせてしまうこともあります。

 で、問題の主人公・矢神遼です。とにかく内気な主人公です。こんなのを主人公にしてバトルものが成立しているのですから驚きです(笑)。ただ、だからこそ良いのです。遼が毎回戦うときの通奏低音として、人は殺しちゃいけない、見ぬ振りしたら後悔する、といったものがあります。それだけ見たら立派な理由ですが、積極的なもの、具体的な行動の指針になるものではありません。だから毎回悩みます。悩んで悩んで苦しんで、それこそが『ザンヤルマの剣士』シリーズの醍醐味なのです!

 そんな内気で根暗な主人公が、裏次郎から”ザンヤルマの剣”というイェマドの遺産を譲り受けるところから物語は始まります。何でも、この剣には世界を滅ぼすだけの力があるらしいのです。しかし、具体的にその剣にどんな力が秘められているのか、とか、世界が滅ぶとはどういうことなのか、といった疑問は現時点では全く明らかにされず、シリーズの最後の最後で明らかになります。とはいえ、そんな世界を左右するだけの力を内向的な少年が手にしてしまうというのは、今でいう”セカイ系”の走りだともいえるでしょう。
 そんな大げさな力を持った剣ですが、とりあえず第一話では、単なる武器としてのみ機能して、遺産によって大勢の人を殺してしまっている人間を止めるために遼は闘いを挑みます。この相手というのが初恋の保健室の先生、桐原朝子だったというわけでして、また何とも…。
 結局、桐原の遺産を破壊した寮は、氷澄や水緒美たちとともに闘うことを決意するわけですが、それこそが裏次郎の真の目的だったということで、次回に続きます。
 というわけで、毎回毎回後味の悪い終わり方を覚悟しなければなりません。それもまたザンヤルマの醍醐味です(笑)。



●登場した”遺産”

ザンヤルマの剣
 危険を察知するセンサーでもあり、持ち主の行動をサポートするアドバイザーでもある。おかげで戦闘には全くの素人の遼でも常人離れした闘いをすることができる。精神感応力もあり、そのため、戦闘中に敵のトラウマにリンクしてしまう。”守護神”としての機能も備えている。世界を滅ぼす力もあるらしいが、スペック面では不明な部分が多い。剣をしまうと一時的に行動不能になる(ただし、精神は幽体離脱のような状態で活動している)。
 ちなみに、”ザンヤルマ”とはイェマドの言葉で最終戦争(ハルマゲドン)という意味らしい(ホントはもっと複雑な意味があるのですが、それは最終巻で説明されます)。

守護神
 イェマドの人間なら誰でも持っている、存在と非存在の落差からエネルギーを取り出すジェネレーター。一時に供給できるエネルギーの量にこそ上限があるものの、供給できる時間は事実上無限である。生体を活性化させ、肉体の状態を健康に保つのが第一の機能である。さらに、周囲に微弱な力場を張り巡らせることで常時外界からの攻撃を防ぐこともできる。また、特定の物体をエネルギー・コーティングし、武器として使用することも可能。裏次郎は”ステッキ”、丈太郎は”懐中時計”、水緒美は”白扇”に偽装している。

ゲーム用品
 形状は銀色のブローチ。
 全部で36種類のゲームができる道具であるが、同じ道具を持った対戦相手がいないので、実際には一人でもできる6種類のゲームでしか遊ぶことができない。
 保険医の桐原朝子は、その中の、剣士を出現させるゲームを使って、自分の気に入らない人間を次々と殺していった。
 出現させる剣士には3つのレベルがあり、最低レベルの剣士が三体、その次のレベルの剣士が二体、最後に最高レベルの剣士として持ち主本人が闘うことになる。ちなみに、イェマドの遺産には原則として名前がない。”ザンヤルマの剣”は名前のある唯一の例外である。


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