| 真珠の砦 |
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原題:THE FROTRESS OF THE PEARL 著者:マイクル・ムアコック(Micheal Moorcook) 訳者:井辻朱美(いつじ・あけみ) 出版:ハヤカワ文庫 初刊:1989 装丁:イラスト 天野喜孝 定価:466円+税 ISBN4−15−010883−8 |
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[あらすじ] 皇子エルリックが故国メルニボネの統治を従弟イイルクーンに任せ〈新王国〉を放浪していたころ、彼は砂漠の街クォルツァザードで姦計にはまり〈世界の心臓にある真珠〉を探さなければならなくなる。 エルリックは夢盗人ウーンとともに、その真珠があるという〈夢の領域〉に足を踏み入れた。そこは魔法も〈魔剣〉ストームブリンガーの力の及ばぬ世界であり、〈混沌〉をもしのぐ狂気の世界であった……。 「わかる。わたしの国でも哲学者たちは、魔術というものの大部分は、現実というものの基本的な素材に対して強烈な意志を働かせること、すなわち夢を実現する可能性だと言っている。この世はすべからく、そのようにして創造されたものだと言うものもある」 (本書p143より) 外伝です。メルニボネを旅立ち〈新王国〉を放浪していたときの出来事なので、時期的には1巻と2巻の間くらいの物語ということになります。別に外伝が出てもいいのですが、シリーズの最後にはあの結末が待っているのかと思うと、少し複雑な気分になります。 今回は、砂漠の街クォルツァザードで二流政治家の罠にはまって薬物中毒になってしまい、おまけに人質までとられて、しぶしぶ〈世界の心臓にある真珠〉を探し出すことを強いられることになります。 真珠は〈夢の領域〉にあるということで、〈神聖乙女〉ヴァラディアの夢の中に、夢盗人である女性ウーンとともに夢の世界へと足を踏み入れます。 夢の世界についてはエルリックは何も知らない素人同然です。おまけに、夢の世界では魔法も〈魔剣〉ストームブリンガーも意味をなさないということで、ウーンに頼りっきりです。ただ、エルリックの冒険は案内人が頼りなかったり嘘をついたりするのが多くて、頼みの〈混沌の神〉アリオッチも助けてくれたりくれなかったりと気まぐれですが、今回の旅の案内人であるウーンはとても親切で頼りになる人物です。珍しい(笑)。魔法も魔剣も使えないので、夢の中では普通に剣を振るって戦うだけです。これも珍しい(笑)。本書は〈夢の領域〉という奇妙な世界の冒険なのですが、実は普通に戦うエルリックの姿が楽しめるお話だったりします。 そうは言ってもやはり夢の世界、そこではエルリックは奇妙な体験をします。〈多元宇宙〉という概念がまさにあてはまるこの世界にあって、無数の夢の世界が存在しそれが現実世界にも影響を与えるとあっては、夢と現実の境界線はとてつもなく曖昧なものです。エルリックは夢の世界のなかに〈魔剣〉を鍛えた〈混沌の神々〉の世界があるのではないのかと考えますし、さらにはそれを超える〈天秤〉の力の存在まで示唆されます。なんとも得たいの知れない世界なのですが、そんな世界を夢盗人たちは、夢の世界の地図を作るのではなく、自分で作った地図をその世界にあてはめる(記述する)ことで理解して、通路をうがち、隣接する他の領域へと渡り歩いてゆきます。 そんな世界での様々な試練に、エルリックはことごとく引っかかります。聡明で好奇心が強いくせに内向的な性格のエルリックは、夢の世界の不思議な部分に心を奪われやすく、さらに望郷や平穏といった心理的罠にあっさりとはまりそうになります。ウーンがいなかったらどうしようもなかったでしょう。旅の主導権をこれほどまでに他人の手に委ねるエルリックというのも珍しいです。夢の世界での出来事とはいえ、エルリックとウーンは仲良くなっちゃうし、サイモリルの生前にこうしたエピソードが用意されたのは少し意外でした。 夢の世界で真珠を手に入れ、自らを陥れた政治家たちへの復讐を遂げたエルリックは、放浪の旅を続けますが、一方、最後で明らかになるウーンの身に起きた出来事については良く分かりません。他の外伝への伏線なのか、それとも他の物語、『エターナル・チャンピオン』の他のサーガにこのことが影響してくるのかも知れませんし、謎です。 |