暁の女王マイシェラ

原題:THE VANISHING TOWER
(Previous Title:THE SLEEPING SORCERESS)
著者:マイクル・ムアコック(Micheal Moorcook)
訳者:井辻朱美(いつじ・あけみ)
出版:ハヤカワ文庫
初刊:1970
装丁:イラスト 天野喜孝
定価:427円+税
ISBN4−15−010606−1


[あらすじ]
 宿敵セレブ・カーナを追ってロルミーンの首都イオザズへと急ぐエルリックとムーングラム。雪に覆われたロルミーンの山岳地帯に入ったふたりを奇怪なキマイラの集団が襲う。
 鳥の女王フィリートの助けによって何とか難を逃れたふたりの目の前に城が現れた。セレブ・カーナを倒すためにエルリックをその城に召還した者こそ、〈法〉に仕える魔法使い、カネルーンの黒い女王マイシェラであった。



「言っておく。エルリックは決して、己が欲するものを手に入れられはしないのだ。それはもう存在しない。死んでしまったのだ。エルリックの手にするものは悲哀と罪と悪意と憎悪のみ。それこそがふさわしい。またそれをしか望まぬ」
(本書p97より)


 「第一の書 最後の王の苦悩」では、前の巻のプロローグにも出てきたマイシェラが登場します。マイシェラは〈法〉に仕える魔法使いですが、〈混沌〉に仕える魔術師セレブ・カーナと同じく〈混沌〉に仕えるケルメイン軍のウムブダ王を倒すためにエルリックに助けを求めます。
 エルリックも〈混沌〉に仕える身ではありますが、セレブ・カーナには復讐したいし、アリオッチは最近あんまり助けてくれないし、ということでマイシェラと手を組みます。
 で、毎度毎度の苦労の末、何とかケルメイン軍とウムブダ王を倒すことには成功しますが、セレブ・カーナは取り逃がしてしまいます。
 エルリックのことをなぜか気に入ったマイシェラは彼を誘惑しようとしますが、エルリックは彼女の誘惑(美味しいとこだけいただいて?)を振り切って、再びセレブ・カーナを追う旅に出ます。
 ……ムーングラムが可哀相です(笑)。

 「第二の書 蒼白の皇子を罠にかける」では、女の罠に軽々とひっかかってしまったムーングラムのせいで精霊魔法を行使するために必要な王族の指輪を盗まれ、更にはセレブ・カーナと手を組んだ乞食王の囚われの身になってしまいます。
 もっとも、エルリックはいつもムーングラムには助けてもらってばかりですし、自分は女をとっかえひっかえしておきながらムーングラムには何にもないんですから、こういうことになっても文句は言えません(笑)。
 乞食の町ナドソコルで、エルリックは〈混沌の神〉である〈燃える神〉チェカラクと、神に匹敵する強さを持つ強力な妖魔と戦うことになります。
 チェカラクは弱ってはいましたがそれでも神、エルリックはアリオッチに助けを求めますが、やっぱりアリオッチは助けにきてくれません。そのとき、なんと〈法の神〉ドンブラスが直々に現れてエルリックを助けます。エルリックが〈混沌〉に仕える身でありながら〈法〉のためにも動いてきたことを認めてのことです。
 それにしても、神の魂をも喰らうストームブリンガーとは一体……?
 ドンブラスに対抗する形で、エルリックと妖魔が対峙したときには、アリオッチ自らが(珍しく)助けにきました。お気に入りのエルリックをドンブラスにくれてやるものかってわけです。神にも女にもエルリックはモテモテです(笑)。
 この戦いでまたもセレブ・カーナを逃がしてしまいますが、王の指輪を取り戻し、タネローンの馬車隊を救ったエルリックとムーングラムは、”赤き射手”ラッキールとともにタネローンを目指します。

 「第三の書 一つの目的を持つ三人の勇者」では、再びマイシェラがエルリックの前に現れ、タネローンがセレブ・カーナの手によって侵略の危機にさらされていることを告げます。セレブ・カーナ憎さ(言い訳?)でマイシェラに再び協力することを誓った彼ですが、奇襲に失敗し、どことは分からぬ異次元へと飛ばされてしまいます。
 そこで、「永遠の彼方の海」でともに戦ったコルムとエレコーゼに出会い、それぞれの世界のタネローンを守るために、〈多元宇宙〉の存亡をかけた〈消える塔〉での戦いに挑みます。
 それにしても、エルリックの世界では強力な神であるはずのものが別の世界では弱かったり、逆に弱いものが強かったり、さらには〈混沌の神々〉と〈法の神々〉とのパワーバランスも次元によってどれも異なるというのは、人間だけでなく神々さえも多元宇宙の世界においては絶対的な存在ではなく相対的なものに過ぎないということがこのエピソードで明らかになるわけですが、〈上方世界の神々〉の存在、あるいは〈宿命〉の行き着くところはどこなのか? エルリックの苦悩はつのるばかりです。
 〈消える塔〉での戦いに勝利したエルリックは元の次元に帰還しますが、そこには瀕死のマイシェラの姿がありました。〈法〉に仕える身でありながら、〈混沌〉に仕えるエルリックに恋し死んでいった女……。思わぬ悲しみにくれるエルリック。
 タネローンへの逗留を進めるラッキールに対して、エルリックは感謝の意を示しつつもこれを断り、セレブ・カーナ追跡の旅に出ます。セレブ・カーナは自らの敵であるだけではなく、マイシェラの仇にもなったのです。
 「ああ、呪われよ、呪われよ、呪われよ!」
 エルリックの叫びは無慈悲な神々への怒りか、それとも呪われた自らの運命に対する嘆きか……。


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