●『理由』のその後……法改正によって何が変わったのか? |
◆はじめに バブル経済の崩壊は、膨大な額の不良債権とたくさん不動産のだぶつきを生じさせました。それらの不動産を競売にかけることで不良債権を処理しなければなりませんが、そのために民事執行の迅速かつ適正な運用が、より一層の課題として求められるようになりました。 そこで、『理由』以降、2003年などに執行妨害対策の強化と権利実現の実効性確保を柱に、大規模な担保法・執行法の改正が行なわれました。ここでは、そうした法改正について、『理由』と関係の深い事柄に限ってまとめてみたいと思います。 ◆短期賃貸借制度の廃止と代替制度の設置 『理由』内において、執行妨害の大きな原因のひとつとして挙げられている制度が、民法(旧)395条の短期賃貸借制度です。 通常、不動産に抵当権が設定されている場合に、その建物に賃借人がいたとして、その抵当権が実行されると、賃借人は追い出されることになってしまいます。しかし、これでは不動産を借りることなど危なくてできない、ということで考え出されたのが民法(旧)395条の短期賃貸借制度でした。 すなわち、抵当権が実行されたとしても、短期の賃貸借であればその期間内は賃借権を保護することによって、短期に限って不動産の賃貸権限を抵当権設定者に保証するとともに、借地借家権保護にも資するとされた制度です。 こう書くととっても良い制度のように思えるのですが、『理由』でも指摘されてるとおり、短期の賃貸借制度を仮装して不動産を不法に占有したり、抵当権実行前に不自然な短期賃貸借契約(異常に高額な敷金・賃料を予め支払ったことにする。そうすることによって立退きの際に買受人にその額の金銭の支払を要求するため。)といった、いわゆる短期賃貸借制度の濫用といった問題が生じてしまいました。 そんなわけで、早くから弊害は指摘されていたのですが、制度を制定した動機自体は上述のとおり正当なものなので、なかなか廃止にまでは至りませんでした。 しかし、バブル経済の崩壊による不良債権の発生とその処理のために、だぶついている不動産の迅速適正な処理がより強く求められるようになり、2003年にこの制度は廃止されました。 その結果として、それまで短期賃貸借制度について定めていた民法395条は全面的に改訂されて、競売前にその建物を賃貸借などで使用していた者については6ヶ月間の明渡し猶予期間を与えるという、建物の明渡猶予制度に改められました。つまり、旧来は短期賃貸借だったら原則その期間は明渡さずに済んで、出て行って欲しいと思う買受人側がその賃貸借が執行妨害の意図を持ったものであることを主張しなければならなかったのですが、今回の改正で、原則出ていかなければならないけど、賃借人側が自らは占有屋等ではない正常賃借人であることを主張することで6ヶ月間の猶予期間が得られるという制度になったということです。 建物を借りる際にその建物に抵当権がついているかなんて登記簿を見れば分かりますが通常そんなことしないでしょうし、私も借家住まいなので、これだと万一のときに大変じゃないかと思うのですが、それほどまでにスムーズな競売手続の執行が求められているのだということでしょう。正常賃借人が不当な犠牲を強いられることが無いように気をつけなければならない(例えば敷金がちゃんと返還されるのか、とか)一方で、買受人側にも6ヶ月間の間に何をされるか分からないという不安はあります。この辺は事態の推移を見守るしかないでしょうね。 あと、賃貸借の登記があってその建物の抵当権者全員の同意があれば、その同意を登記することで抵当権者と建物の買受人にその賃貸借を対抗できる、という制度も新しい民法387条によって定められました(それまでの387条とは全然違います)。ただ、これだけ厳しい要件を普通の賃借人が備えることはまず無理でしょうから、一般人には関係ない話といって良いでしょう。現実問題として、サブリースなどの場面での適用が予想されています。 ◆いわゆる「三点セット」について 『理由』でも述べられているとおり、物件の概要を知るためには、いわゆる「三点セット」を見る必要があります。 「三点セット」とは、執行官が現況の客観的状況を調査して作成する「現況調査報告書」と、それに基づいて権利関係などを記載する「物件明細書」、裁判所が選任した不動産鑑定士が評価したその物件の評価額とその根拠を記載した「評価書」の三つのことをいいます。 しかし、主に「物件明細書」が基本となりますが、これを一読して、この物件の引き渡し命令が得られるか判断できるのはプロだけで、一般人が参加を躊躇するのも当然という指摘がなされていました。 そこで、「物件明細書」の標準化の試みがなされています。これは、一般の買受希望者にとって分かりやすくする必要性と、物件明細書の記載が専門的なものであるがために各裁判所によって記載の様式がまちまちでは分かり難いので統一の必要があるということでなされている試みです。 これは、最終的には「物件明細書」のインターネットによる公開を可能にした民事執行法62条2項の改正と関係してきます。物件について分かりやすく記載された「物件明細書」をネット上で公開することで、多数の買受人の参加を促そうという狙いです。これは確かに便利ですが、情報化社会につきものであるプライバシー保護の観点からの調整をどのように行なうのか議論する必要があるでしょう。 また、「現況調査報告書」を作成する執行官の調査権限も強化されました(民事執行法57条4項・5項)が、これもまたプライバシーの問題があるでしょう。ただ、この場合、プライバシーの侵害をかさに占有屋がその調査を妨害するのではないかという危惧が執行官をはじめとする現場にはあるでしょうから、実際にはほとんど配慮なされていないらしいです。ネットで「物件明細書」が公開されるようになったら、その基になる調査にはあんまり協力したくないと思うのは当然だと思いますが、世知辛い世の中になったもんです……。 加えて、執行官制度の運用改善もなされています。執行官数の増員や、総括執行官制度の発足による組織的な対応などがそれです。『理由』で指摘されている問題点がいちいち当たっていることに驚かされます。 ◆内覧制度の創設 「三点セット」の記載をいくら工夫しても、所詮は書面です。ホントのところは現物を見るのが一番でしょう。しかし、従来の競売手続では買受希望者は不動産の内部を見ることはできませんでした。これは通常の不動産の取引慣行では考えられないことです。そこで、新たに不動産の内覧制度が創設されました(民事執行法64条の2)。 内覧は差押債権者の申立てに基づいて実施されます。内覧は不動産の価値を正確に把握することで売却の価格とその可能性を高める効果が期待しうる半面、占有者とのトラブルに経費がかかることも考えられるので、差押債権者の意思に委ねられることになりました。 もちろん占有者とのプライバシー等には配慮がなされなければいけませんが、それにしても、今までなかったのが不思議な制度だと思います。うまく運用されて欲しいもんです。 ◆罰則の強化 執行妨害対策として刑事罰も強化されました。 不動産に関して執行官が施した標識を損壊した場合に適用される公示等損壊罪(民事執行法204条)、物件明細書の作成に関しての執行裁判所の審尋期日に正当な理由なしに出頭を拒んだり虚偽の陳述をしたり、執行官の質問または文書提出要求に対し虚偽の陳述や虚偽記載の文書を提出した場合に適用される陳述等拒絶の罪(民事執行法205条)が新設されました。これで妨害活動がなくなればよいのですが。 ◆おわりに 以上、『理由』以降の担保法・執行法の改正点について、『理由』に直接的に関係すると私が判断した範囲に限って、(これでも)コンパクトにまとめてみました。 ホントはもっといろいろ改正されていますし、そうでなくても詳しく書こうと思ったらこんなもんじゃすまないのですが、それだと論文どころか一冊の本ができてしまいますので、この辺で勘弁して下さい(笑)。本稿の目的はあくまで「『理由』のその後」なので。 ただ、概観した限りでも大きな改正だと思います。特に短期賃貸借制度の廃止は大きいです。これによって競売手続や通常賃借人の生活にどのような影響が出てくるのか、要注目です。 きちんと調べて書いたつもりですが、誤字脱字等はもとより、私の法律の理解等に間違っている点や不明瞭な点がありましたら、速攻修正しますので遠慮なくご指摘下さい。また、法律は生ものですので、これからさらに改正されるかも知れません。そうしますと、ここの記述自体が時代遅れのものになってしまう可能性もあります。そうした状況についても気付いたらフォローしていきたいとは思いますが、最後は自己責任ということでお願いします。自分で調べるのも結構面白いもんですよ(笑)。 (記2004年12月) ※参考資料 民事法研究会 『新民事執行法実務NO.1』 ISBN4−89628−148−9 民事法研究会 『新民事執行法実務NO.2』 ISBN4−89628−194−2 |