| さよなら妖精 |
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著者:米澤穂信(よねざわ・ほのぶ) 出版:東京創元社 初刊:2004 装丁:岩郷重力+WONDER WORKZ。 定価:1500円+税 ISBN4−488−01703−7 |
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[あらすじ] 1991年、高校生の守屋路行は、雨宿りをしていた異国の少女マーヤと出会う。ユーゴスラビアから来た彼女は、すぐに彼と彼の友人たちと打ち解けると、日常的な不思議があることに「哲学的意味がありますか?」と守屋に問い掛けては推理を求める。 やがて彼女はユーゴスラビアに帰り、そして守屋は最大の謎解きに立ち向かうことになる…。 「ぼくたちも、自分自身の文化的な衝撃を、これほど意義深い形で自分に説明できたらいいのに」 『エンベディング』(イアン・ワトスン/国書刊行会)p287より。 タイトルに”妖精”とあって、ユーゴスラビアが関係したりしますが、ストイコビッチは関係ありません(笑)。 本書は前半と後半の二つに分けることができます。 前半は守屋とその仲間たちがマーヤと知り合い仲良くなって、そうしてマーヤが不思議に思ったことについて守屋が推理させられるといった感じて、さながら日常の謎を扱った連作短編ミステリめいた雰囲気で物語はほのぼのと進んでいきます。推理はしますが、実証して事実を追究しようとかそういうことはしないので、そいういう意味で透明感みたいなものがあって、その雰囲気が後半の結末の痛々しさを演出してるんじゃないかと思ったり思わなかったり。 だいたい、探偵役の守屋にしてもマーヤにせっつかれてしぶしぶ推理しているめんどくさがり屋ですし、でも、マーヤがいるとそこに不思議があって感動があって、いままでの日常と違う世界があるような気になれて、そして実際に彼女の背後には守屋の知らないユーゴスラビアという、彼にとっての”非日常”があるのです。 そんな風に守屋はマーヤ(というよりその世界)に惹かれていくのですが、これだといわゆる”ボーイ・ミーツ・ガール”な物語で、それはそうなのですが、ただ、いまどきのボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーは、ライトノベルの傑作『イリヤの空 UFOの夏』みたいに”セカイ系”のような方向に話が持って行かれがちです。ちなみに、”セカイ系”とは「個人の問題が中間段階をすっ飛ばし世界の問題と直結するような物語」(※註1)のことで、学校とか家族とかの社会問題を現実感を持って認識できない世代間の共通言語の役割を持つ物語として理解されたりしてます(←アイヨシ意訳)。 社会問題にリアリティを感じることができないという点では、本書の主人公の守屋はその典型です。これといった趣味を持つこともできず、礼節を知るために衣食の足りない生活をすることに憧れるような、一見すると世の中に諦観しているようで実は火種をくすぶらせている人間なので、今風のライトノベルみたいな雰囲気はあります。 ところが本書は違ってて、ユーゴスラビアという遠い世界が用意されています。日本からではいくら興味を持って勉強してもリアリティを感じることはできないけど、でも確実に存在する世界。社会派ミステリと呼ぶには観念的に過ぎるけど、セカイと呼べるほどファンタジックではない世界。そんな世界に対する少年(と呼ぶには微妙な年齢設定)の渇望こそが本書の一番の読みどころであって、つまり何が言いたいかと言えば、本書は確かにミステリなんですが、その「ものさし」だけで本書を計っちゃうと大失敗ですよってことです。それだけ、後半部分の推理と解答・真実が痛々しいのです。単純にバッド・エンドを迎える物語というのはたくさんありますし、それらに比べるとそんなに悲惨な結末だとは思いませんが、これほど絶望的なのはちょっと思い当たりません。 でも、そうした絶望感って、おそらく多くの人が何となくでも抱いたことがあるんじゃないかなぁと思ったり、そうじゃない方がいいなと思ったり。だから本書は青春小説で、そんなところが面白いと思ったところです。 ちなみに、本書を読んで(旧)ユーゴスラビアの歴史について興味を持たれた方には、マンガですが『石の花』(※註2)がオススメです。 |
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| ※註1 『文学賞メッタ斬り』 著者:大森望・豊崎由美 (おおもり・のぞみ/とよざき・ゆみ) 出版:PARCO出版 初刊:2004 定価:1600円+税 ISBN:4−89194−682−2 |
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”セカイ系”の定義は『文学賞メッタ斬り』p221を引用しました。”セカイ系”作品の代表例として、新海誠『ほしのこえ』や高橋しん『最終兵器彼女』(小学館)などが挙げられています。 『文学賞メッタ斬り!』は、芥川賞・直木賞といったメジャーな賞からミステリ系、SF系、ファンタジー系等の様々な賞について、内幕を少々ばらしつつ言いたい放題している気持ちのいい本ですが、それだけでなくって用語や作品についての解説もついているので、文学ガイドとしても秀逸です。 |
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| ※註2 『石の花』(文庫全5巻) 著者:坂口尚(さかぐち・ひさし) 出版:講談社漫画文庫 1巻の定価:583円+税 1巻のISBN:4−06−260244−X |
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1941年、ナチスドイツがユーゴスラビアに侵攻した。 平和な生活に退屈を覚えていた少年クリロは侵略者の攻撃により同級生を皆殺しにされ、家族と生き別れになり、戦乱の渦に巻き込まれていくことになる、といった感じの物語です。 5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字を持つ複雑な国家を舞台に、政治的思惑が入り乱れる複雑な物語なのですが、主人公クリロの生き方そのものはシンプルなので物語を読み進めることには思ってたより苦労はしませんでした。その分、戦争の無駄さとかどうしようもなさといったことを考えさせられて分からなくなっていきます。 5巻の巻末には1996年までのユーゴ(ボスニア)の動きが簡単に説明されているので、『さよなら妖精』を読んでユーゴスラビアに興味を持たれた方のガイドになると思います。 |
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