| 重力ピエロ(a pierrot) |
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著者:伊坂幸太郎(いさか・こうたろう) 出版:新潮社 初刊:2003 装丁:写真 三谷龍二 定価:1500円+税 ISBN4−10−459601−9 |
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[あらすじ] 遺伝子情報会社に勤務する泉水(いずみ)は、落書き消しを仕事としている弟の春から「兄貴の会社が放火に遭うかもしれない」と忠告を受けるが、そのとおりに会社の近くで放火が発生する。 理由を問い質す泉水に対し、春は、連続放火事件の発生と現場にある落書き・グラフィティアートとの関係を指摘する。 犯人は何故放火を繰り返すのか? 落書きの意味は? そして、犯人は一体何者なのか? 作品の中心にあるのはDNA・遺伝子です。といって、理系的な知識の羅列があるわけではありません。遺伝子と人間のつながりというのが物語の主要人物である3人につきまとっています。 主人公である泉水は遺伝子の情報を扱う会社に勤務しています。その弟である春は、母親がレイプに遭ったことで生まれたという出自を持ちます。そして、二人の父親は末期癌で入院しています。 これだけだと、非常に重厚な作品なのかなぁ、とか、末期癌に立ち向かうヒューマンドラマなのかな、とか思われてしまうかもしれませんが、そうではありません(それが悪いという意味ではありません)。軽薄ということではないのですが、軽妙でオシャレな物語に仕上がっています。こういうテーマの作品を「面白い」といってしまうと誤解されるかもしれませんが、しかし、面白いのです。 春の出自については、こういうキャラの登場する作品をあまり読んだことがなかったせいか、なかなかに考えさせられました。作中の登場人物の述べているとおり、答えのない問題ではあるのでしょうけれど。 末期癌の父親がかっこいいです。兄弟とも難しい性格をしているのですが、その二人を理解しつつ、遺伝子以外のつながりを信じるというか、遺伝子の束縛をあっさりとクリアしているそんな生き方が魅力的です。 暗号ミステリとしても面白いです。暗号ミステリって、特殊な知識が要求されたり入り組み過ぎてて難しかったりして、あまりよいイメージがないんですがこれはよいですね。何がよいかといえば、暗号の出来とか仕組みとか解き易さとかそういうものではなく、その暗号が作中の出題者にとっても作品全体にとっても、実に意義のあるものだからです。……あんまりミステリとして褒め言葉にはなっていませんね(笑)。でもいいんです、面白いんですから。 (↓以下ネタばれ) で、本作を読んで一番感心させられたのは、物語の最後の方で、春だけでなく泉水も葛城を殺そうとしていたということが明らかになったときです。いや、そんなの早く気付けよといわれれば返す言葉はないのですが、でも驚きました。 本作はDNAについてのディープな薀蓄はありませんが、それでも遺伝子はアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類の塩基でできているとか、それでもって二重螺旋に繋がっているといった基本的な知識くらいは語られてるわけです。その二重螺旋構造が兄弟の行動を暗示していたとは! まさに驚異的な構成力です。テーマとプロットの奇跡的な融合です。脱帽としか言い様がありません。 (↑ココまで) まあ、そんなに大袈裟なことを言わずとも、本作は各所に散りばめられている家族のエピソードもとても面白いですし、楽しく読める作品です。 また、『オーデュボンの祈り』(伊坂幸太郎/新潮文庫)の主人公・伊藤がちょこっと出てきてたり、『ラッシュライフ』(伊坂幸太郎/新潮社)に出てくくる泥棒・黒澤が本作では探偵役として登場してたり、落書きされた蕎麦屋の主人が『アヒルと鴨のコインロッカー』(伊坂幸太郎/東京創元社)にちょこっと出てきてたりと、ちょっとした仕掛けもあります。そうした他の作品との接点を探して伊坂ワールドを堪能するのも良いでしょう。 (ただし、個人的にはこうした仕掛けはあまり好きではありません。これだけ立派な物語なのですから、他の物語のことなど気にせずにのめり込みたいのです。) とにかく、読み応えと面白さが両立している作品なので未読の方には一読されることを強く推奨します。 |