蹴りたい田中
著者:田中啓文(たなか・ひろふみ)
出版:ハヤカワ文庫
初刊:2004
装丁:カバー 小松藤茂
定価:700円+税
ISBN4−15−030762−8

[裏表紙を丸写しした本書のあらすじ]
第二次世界大戦下で鬱屈する少年兵たちの、複雑な心象を描破した珠玉作「蹴りたい田中」で第130回茶川賞受賞後、突如消息を絶った伝説の作家・田中啓文。以来10年、その稀有なる才能を偲んで、幼少時から出奔までの偉大なる生涯を辿る単行本未収録作8篇+αを精選、山田正紀、菅浩江、恩田陸などゆかりの作家・翻訳家・編集者らによる証言、茶川賞受賞時の貴重なインタビュウ「未到の明日に向かって」までを収録した遺稿集。



 ……ツッコミどころがありすぎて、どこからいじったらよいのか良く分かりません(笑)。
 前作「銀河帝国の弘法も筆の誤り」に続く、駄洒落バカSF短編集第二弾です。
 特筆すべきは、やはりその恥知らずなタイトルでしょう。第130回芥川賞を史上最年少で受賞した綿谷りさの『蹴りたい背中』を、著者自身の名前とかけて堂々と駄洒落化しています。
 白状しますと、『蹴りたい田中』というのは、駄洒落としては上出来だと思います。それでも、口外するのは恥ずかしいし、オヤジギャグ呼ばわりされるのは間違いなしの下らなさです。しかし、著者が恥ずかしいと思うことを書くと読者に喜ばれる、というのは小説の常識(?)ですから、まあ理解はできます。しかし、ホントのところは著者自身このタイトルを思いついたときに「この駄洒落は使える!」と会心の笑みをこぼしたであろうことは想像に難くありません。

 で、内容はといいますと……徹底的に下らないです(笑)。
 〈未到の明日に向かって〉は、茶川賞(念のために言っておきますが、そんな賞はありません)記念インタビュウという体裁になってますが、一応著者の自伝といいますか、しょうもないギャグを交えつつ、簡単なプロフィールみたいなものとなってます(どこまでホントなのか知りませんが…)。
 〈地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場〉はウルトラマンのエログロパロディとなっておりまして、それ以上コメントする気にはなりません(笑)。
 〈トリフィドの日〉〈トリフィド時代〉は、ジョン・ウィンダムの同名小説のパロディとのことですが、未読なのでよく分かりません。読みました。感動的な名作です。こんな馬鹿な話ではまったくありません。ホントいい加減にして欲しいです。
 SFとしては(無駄に)濃ゆいんですよね、この本。さらに、星新一の人生をちょこっとモチーフにしつつ、ウルトラマンセブンなんかの小ネタがまざりつつ、最後に待っているのは地口ネタ……いい加減にしなさい!
 〈やまだ道 耶麻霊サキの青春〉は、まんが道がモチーフなんでしょうね、一応。それで山田正紀作品についてそれなりに熱い思いを語りつつ、最後にSFで言えば内宇宙、ミステリで言えばメタ・ミステリめいたラストを迎えるわけですが、落ち着くところはやっぱり駄洒落……。
 〈赤い家〉は、『蚊』というプレステ2のゲームの6人の作家によるノベライズ版『蚊―か―コレクション』(電撃ゲーム文庫)に掲載された作品です(企画自体が無謀としかいいようが…いや、そういうのは好きですけどね)。蚊が主人公のミステリという、お馬鹿企画の割に真面目な内容となってまして、なかなか良い出来ではないかと思っていますが、そんなことを思ってしまう私の頭がすでにおかしくなっているのかもしれません(笑)。
 〈地獄八景獣人戯〉は水戸黄門のグチャグチャパロディです。もうめちゃくちゃなんですけど、弥七が風車(”かざぐるま”にあらず、”ふうしゃ”です)を投げて死屍累々の地獄絵図となったときには不覚にも笑ってしまいました。
 〈怨臭の彼方に〉は、何のパロディなんでしょうね? 多分下敷きとなる元ネタがあるんでしょうが、よく分かりません(聖書でいいのか?)。自らの美貌の衰えを恐れるあまりに宇宙人がら不老不死を与えられるますが、代わりにとんでもない悪臭を身にまとうことになってしまった俳優の悲劇にして喜劇ですが…最後はやっぱり駄洒落ですし、予想できても嬉しくありません。
 で、表題作にもなっているインパクト抜群の〈蹴りたい田中〉ですが、『蹴りたい背中』とは何の関係もありません。もうちょっと関係があってもいいんじゃないですか?(笑) 戦艦名がどうして〈和紀〉なんですか? もう、訳が分かりません。
 最後に〈吐仏花ン惑星 永遠の森田健作〉ですが、タイトルは私の大好きな『永遠の森 博物館惑星』の駄洒落ですが、美しいストーリーが、跡形もなくなっています。ほいでもって、駄洒落でつないで最後は『猿の惑星』ネタ……もう、何も言うことはありません。

 てな感じで、ハッキリ言ってバカな本ですが、細かいところまで無駄に凝ってまして、それを発見してくすりと笑ってしまうとその後悔しい気分になります。オススメする価値があるとは思いませんが、でも、たまにはバカな本を読みたくなるときってありませんか? そんなときにはオススメしてもいいかなぁ、って思う一冊です。大声ではオススメできませんけどね(笑)。


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