| 永遠の森 博物館惑星 |
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著者:菅浩江(すが・ひろえ) 出版:ハヤカワ文庫 初刊:2000 装丁:カバーイラスト 菊地健 カバーデザイン ハヤカワ・デザイン 定価:760円+税 ISBN4−15−030753−9 |
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[あらすじ] 地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館惑星「アフロディーテ」には、全世界のあらゆる芸術品が集められ、そこに勤める学芸員たちは自らの頭脳に直接接続したコンピュータを駆使することで”美”を追求していた。 総合管轄部署の田代孝弘は、芸術品に対して自らの管轄であることを主張してやまない三つの部署の間の調整役として板ばさみに苦しみながら、そのものに宿る美と心に触れていく…。 SFを読んでてときどき、この設定だけでどんぶり三杯はいけるな、という訳の分からないことを思ったりしますが(笑)、本書なんかはまさにそれです。 ありとあらゆる芸術品が集まる世界最大最高の博物館惑星「アフロディーテ」。そこには三つの専門部署があり、それぞれの部署に専用のデータベースが用意されてます。 音楽や舞台と文芸全般を担当する「ミューズ」にはデータベース「アグライア」、絵画工芸部門担当の「アテナ」には「エウプロシュネー」、動植物園担当の「デメテル」には「タレイア」といった感じです。学芸員たちは手術によって自らの頭脳をデータベースに直接接続することで、イメージを思い浮かべるだけでデータの絞込みができます。膨大なデータの海からのイメージによるデータの抽出は大抵は単なる類似の域を出ることはありませんが、ときに画一的な分類では得られない革新的な解釈・関係を発見することがあります。 そうした学芸員たちの分析・調査能力が「アフロディーテ」の売りなのですが、芸術品の価値は先の三つに簡単に分類できるものではありません。貴重な民芸品があった場合に、それに文字が書かれていれば「ミューズ」が解釈を担当しますが、民芸品そのものの所有は「アテナ」が主張するでしょうし、それが珍しい植物でできていたら「デメテル」が管轄を主張するでしょう。それぞれが自らの役割を主張する一方で、三者の協力がなければ芸術品の総合的な審美を行なうことはできません。 そこで登場するのが三者の調整部署「アポロン」(データベースは「ムネーモシュネー」)であり、そこに勤めているのが本書の主人公である田代孝弘です。「アポロン」は三者の調整役として上位の立場にあって、多様な価値観が集結して結実する瞬間に立ち会うことができるという意味ではエリートなのですが、実際には揉め事の調停役ばかりやらされてます。 本書は、そんな「アフロディーテ」に次々と持ち込まれてくる芸術品を巡る、しんどくも(笑)心温まる9つの連作短編集です。 〈天上の調べ聞きうる者〉物語の背景・設定を分かり易く説明する役割を担いつつ、芸術を鑑賞する側の感覚が問題となっています。「駄作と究極美の間をさまよってる」(p33)が悲哀を誘います(笑)。 〈この子はだあれ〉個人的には一番好きな作品ですが、かなり”痛い”物語です。芸術の判断基準として、ときに真・善・美の三つが挙げられますが、この物語では”真”の残酷さが語られてます。 〈夏衣の雪〉雅楽に着物といった日本の文化特有の見立て(シンボライズ)が孝弘を苦しめます。日本語の駄じゃれがトリックになってしまうのも本作では面白いですね。 〈享ける形の手〉踊り手の苦悩を描いた物語。聴衆に媚びるでもなく、自らの殻にこもるでもなく、自らの踊りを観客に観てもらうことでさらに進歩していく、って一言でいえば簡単ですが、でも難しいですよね。 〈抱擁〉マシュー登場(こいつむかつく)。それはおいといて、「最近の若いもんの言ってることは…」が残酷な形であらわれてる作品。受け継がれて進歩していく技術を享受する若者と、それに切り捨てられて置いていかれた老人の悲哀が本当に残酷です。 〈永遠の森〉表題作ですが、マシュー死ね(笑)。いや、新システムに踊らされる役だってことは分かってるんですけどね。まったく、最近の若いもんは(笑)。それはそれとして、美とオリジナリティの関係という、どのジャンルでもシビアな問題がテーマです。深いなぁ…。 〈嘘つきな人魚〉アイ・アム(I am)のポジティブ版でしょうか? 自らの手で作ったという実感ですか…。芸術は皆のものか? それとも一部の人間のためのものか? どちらも正解というのが良い子の解答なのでしょうが、作ってる当人には深刻ですよね。 〈きらきら星〉土星の未知の物品群が、抜群の分析能力を見込まれて「アフロディーテ」に送り込まれてくるわけですが、異星人の考えなんて分かるわけもなく悪戦苦闘。数学の持つ真実性と、そこに美を見出す感性が面白い作品です。 〈ラヴ・ソング〉連作の最後を締めくくる作品。これまで貼られていた伏線の意図が明らかになっていき、静かにお終いを迎えます。果たして孝弘と美和子は破局を迎えてしまうのか(笑)。しかし、美に向かい合うのに大事なのは知識ではなく感性というのは分かるのですが、その感動をコンピュータに記録して理解させるという考えは、本書ではホノボノとした感じで語られていますが、少し怖い感じもするのは私だけでしょうか? 続編が待たれます。 と、ざっと9編を概観してきましたが、本書はSFとして「ベストSF2000」の国内篇第一位、「星雲賞・国内長編部門」を受賞して高く評価されていますが、のみならず、ミステリとしても、「第54回日本推理作家協会賞・長編並びに連作短編集部門」を受賞しておりまして、多様な楽しみ方のできる本であることがお墨付きの、オススメしやすい一冊です。 |