| ミステリアス学園 |
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著者:鯨統一郎(くじら・といういちろう) 出版:カッパ・ノベルス 初刊:2003 装丁:カバーデザイン 泉沢光雄 定価:781円+税 ISBN4−334−07509−6 |
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[あらすじ] ミステリアス学園1年生の湾田くんはそれまでミステリを読んだことがありませんでしたが、松本清張の『砂の器』を読んでその面白さに開眼! さっそくミステリ研究会に入ることにしましたが、そこではなんと、本格ミステリを研究対象から外そうという動きが起きていました。 「本格の定義は何?」 謎物語はその内にさらなる謎物語を紡いでいきます。行き着く先は果たして……? 「冗談じゃないよ」と、ある専門家は言うのである。「犯行現場の血のりを踏んだ足跡が、丁寧につながって、そいつの家まで続いているんだ。私はそこまで見届けて、黙って引き返してきた。そいつが犯人だなんて、私は精神として許せない」。 (別役実・著 ちくま学芸文庫 『犯罪症候群』p100〜101より) たまにはネタばれなしで頑張りたいと思います(笑)。 本書は、ミステリについて語っているミステリ、つまりメタ・ミステリです。 メタ・ミステリといえば、このサイトでは『名探偵の掟』を紹介しています。ミステリの一般原則自体を利用したストーリー展開という点では両者は共通していますが、『名探偵の掟』の方はいわゆる「本格」に対して作者である東野圭吾が送った決別の言葉という印象を受けますが、本書の方は、閉塞的な現状を再認識(自殺行為っぽい・笑)しつつも、さらなる可能性を本格の中に模索するという印象を受ける点が異なります。 これは読者を選ぶ本でしょう。 まず、ミステリに興味のない人には全くダメでしょう。 ミステリに興味がある方であっても、ミステリ文学史やトリックや作風を体系的に考えようなんて気のさらさらない、面白いものは面白いんだからそれでいいじゃないか、という人にも、やはり本書はお呼びでないでしょう。 で、私はこういうお勉強チックな読み方好きなので、楽しませてもらいました。 1841年に発表されたポーの『モルグ街の殺人事件』から海外と日本のミステリ文学史を簡単に分かりやすく概観されてます。自分の好きな作家の周辺にどんな作家がいるのかを知るには便利です。 また、この手のものにはお決まりの、密室やアリバイ、嵐の山荘、雪密室といったミステリならではのキーワードを扱った薀蓄とシニカルなトリックもちゃんと用意されてます。 そうした論点整理的な要素に加えて、「本格の定義」について作者ならではの定義が紹介されるなど、新しい試みも散見されますので、強者のミステリ読みにも読みどころはあると思います。 一応、ミステリ初心者の湾田乱人(わんだ・らんど)くんを主人公にしてますので、ミステリ入門書としても読めるのかも知れませんが、本書はあくまでもメタ・ミステリなので、初めての一冊としてはオススメできません。普通(?)のミステリを何冊か読んだあとならオススメです。 全部で7章あるのですが、各章それぞれにミステリのお約束を逆手に取った事件が発生します。 (第一話「本格ミステリの定義」、第二話「トリック」、第三話「嵐の山荘」、第四話「密室講義」、第五話「アリバイ講義」、第六話「ダイイング・メッセージ講義」、最終話「意外な犯人」となってます。) そして、次の章に進むと、前の章が”小説”として取り込まれていって、その度に登場人物が減っていくという何層もあるマトリョーシカな構造になっています。 で、最終章では、物語の登場人物たちが自分たちの外にある存在、すなわち作者や読者の存在に気づき、作者との会話を通じて本書における一連の事件の”真犯人”を付きとめます。しかし、この真相がまた何とも人を食ったもので……。 いやあ、今まで読者が犯人、とか、作者が犯人、あるいは、読者が被害者、などの半ば感心し半ば呆れ返った作品群(ホントにあるんですよ)が、走馬灯のように浮かび上がってきましたが、それを上回るオチがあるとは思いもしませんでした。いや、上回ればいいというもんでもないですが(笑)。 (ちょっとネタばれっぽくなってきたので伏字にします↓) この最後のオチとも関係があるのですが、面白いと思ったのが「シュレーディンガーの猫」の使い方です。SFなどでよく見る理論ですが、ごく簡単に説明しますと、箱の中にいる猫が生きているのか死んでいるのかは確率でしか表現することができない、という理論です(ホントに簡単でスンマセン・笑)。 この理論は、普通は「猫が生きている世界」と「猫が死んでいる世界」というふたつの並列する世界、つまりパラレルワールドの存在を説明するために用いられてると思います。しかし、本書では箱のふたを開ける、つまり観察するという行為が猫の生死に影響を与えてしまうという、観察という行為の能動性という側面を上手く使って、驚愕のオチまで論理的に運んでいきます。本書はメタ・ミステリですが、この辺りはまさに「本格」だと思います。 (↑ここまで。結局ネタばれしてしまいました……。) まあ、いろいろ書いてきましたが、本書はハッキリ言って奇書ですので、変なものが好きな人ならミステリとかのジャンルは関係なく十分楽しめると思います。 |