| 緑は危険 |
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原題:GREEN FOR DANGER 著者:クリスチアナ・ブランド(Chritianna Brand) 訳者:中村保男(なかむら・やすお) 出版:ハヤカワ文庫 初刊:1943 装丁:カバー 谷口茂 定価:640円+税 ISBN4−15−073001−6 |
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[あらすじ] 戦時下のヘロンズ・パーク陸軍病院には負傷者が次々と運び込まれてきた。郵便配達人のヒギンズもその一人だったが、手術前の麻酔時に激しく苦しみ出し、そのまま死亡してしまった。 一応不審死ということで捜査を開始したコックリル警部だったが、その最中、殺人事件が発生する。にわかに事件は連続殺人の様相を見せてきたが、コックリルは”ケントの恐怖”の異名どおりの容赦ない捜査によって犯人を追い詰めていく。自らをも追い詰てしまうことになるのも知らずに……。 ブランドといえば、『招かれざる客たちのビュッフェ』(創元推理文庫)という有名な短編集がありまして、そのため、もしかしたら短編作家として知られているかもしれません。 だとしたらとても残念です。別に『ビュッフェ』がつまらないわけではない(いや、むしろ面白い)のですが、私は断然長編作品の方が好きだからです。 なかでも、本書は抜群だと思います。 戦場という、たくさんの死が無造作に生産されていく中で、たった一人の人間の不審死について、原因を追求し犯人を探そうとするという設定自体が、既に好みです(笑)。 物語に入る前に「作者のおことわり」という文章があるのですが、ここで作者は、自らが看護員として空襲下で経験したことを基に本書を書いたことを告白しています。そんなわけで、戦争下での独特の雰囲気、非常時の秩序といったリアリティが感じられます。 実際、登場人物たちが妙に落ち着いているのが印象的でした。 と言いますか、空襲よりも殺人事件の発生の方がよっぽど恐怖の対象になっています。奇妙といえば奇妙ですが、しかし、死を恐れるのは極めて正常な心理です。それを麻痺させてしまう戦争というシチュエーションの方がはるかに異常なのです。 そんな、正常なのか異常なのか分からない、常識があるようでない陸軍病院という空間の中で殺人事件が発生します。 主な登場人物、容疑者は限られているのですが、彼らの人物が実に良く書けていて困ってしまいます。もし、ミステリで登場人物の心理を完璧に書き切ってしまったらミステリになりません。ですから、余白というか書かない箇所を残すものです。ところが、そうしたものが全く感じられないのです。みんなが、自分が容疑者にされることを恐れ、事件の不思議さに頭を悩ませます。しまいには「誰が犯人でもいいじゃないか」という奇妙な連帯感すら生まれてきます。 ……誰が犯人だよ! って、すっかり作者の思う壺ですね(笑)。 結局、動機は狂気じみたものなので分からなくて当然なのですが、しかし、それがあまり不自然なものに感じないのは、戦争という集団的狂気の最たるものが背景としてあるからだと思います。 トリックは簡明にして大胆なものですし、とても好感が持てました。 (ちょっとネタばれ↓) 塗るのはいいけど、そんなに早く乾くかな? とか、臭いはしないのかな? とか思いましたが、まあいいじゃないですか(笑)。 (↑ココまで) しかし、本書が面白くなるのは、探偵役であるコックリル警部の演説が終了し、事件があらかた解決したところからです。 いやあ、衝撃的というか笑撃的な展開です。このコックリル警部、”ケントの恐怖”の異名をとる切れ者で、容疑者たちをノイローゼ寸前にまで追い詰めて犯人をいぶりだします。その過程がまた容赦ないもので、それをちょっとばかし楽しそうにこなしてしまうという、少し嫌味な奴です。 でも、その嫌味がまさか自らの身に数十倍になってのしかかってくるとは思いもしなかったでしょう。こんな皮肉な結末があるでしょうか。まさにイギリス・ミステリの極みでしょう。 この事件の結末は、後の『ジェゼベルの死』の中で、「ケントの病院でのあの事件」としてチクチク突っつかれることになります。 もう最高です(笑)。 |