| 死刑の理由 |
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著者:井上薫(いのうえ・かおる) 出版:新潮文庫 初刊:1999 装丁:デザイン 新潮社装幀室 定価:857円+税 ISBN4−10−117321−4 |
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一人の生命は、全地球より重い。 (最高裁昭和23年3月12日大法廷の死刑判決より) 本書は、弁護士である著者が、1984(昭和59)年から1995(平成7)年までの12年間に最高裁の判決で死刑が確定した全43件について「死刑の理由」をまとめたものです。ですから、私は本書のジャンルをノンフィクションに分類しましたが、ホントのところ正確ではありません。100%事実であると断言してしまうと冤罪の可能性を無視することになってしまうからです。読みやすくするためにちょっとだけ手の加わった、判例集と呼ぶのが妥当でしょう。 それで、なぜ1984年からかについては理由が説明されていますが、死刑に関するリーディング・ケースともいえる重要判決、いわゆる「永山事件」があったからです。この判決はその後の死刑判決に大きな影響を与えたといわれています。 で、本書は、全43件の死刑判決について、判決のみを情報源に、死刑の罪名、第一審、控訴審、上告審それぞれの量刑の理由を、著者による必要最小限度の編集が入っただけの、ほとんどナマの死刑判例集です。 法律関連文献ならではの悪文は、読みなれていない方には相当しんどいかも知れませんが、これも現場の雰囲気と思えばちょっとくらい我慢していただけるのではないでしょうか。 むしろ、文法的には愚直なくらい正確なので、慣れれば楽に読めると思います。 とはいえ、内容は決して楽なものではありません。 はしがきの「今後、死刑について発言する方は、少なくとも本書の内容程度は頭に入れておいていただきたいと願っています」(p13)を読んで、別に発言する気はありませんが(笑)、「それもそうかも」と思って読むことにしました。(もっとも、本書は死刑制度の是非については完全に沈黙を守っています。著者自身も本書の意義について、誰でも入手できるものを読了、理解、編集する手間を省いた点にある、と述べていますし。) そこまでは良かったのですが、読んですぐ嫌になりました。 当たり前ですが、人の命が尊いことくらいは裁判所も承知しているわけですから、死刑判決なんて簡単には出ません。つまり、死刑判決をもらうためにはそれだけのことをしなければなりません。で、この本にはそれだけのことをした(とされる)人たちのエピソードが集まってます。 したがいまして、本書はもう最低人間のオンパレードといった感じです。次から次へと数々の最低行為が淡々と判例独特の血の通っていない筆致で語られていきます。 ……もう駄目です。全然頭に入りません。胃はもたれるし。 ということで、少し読み方を変える作戦をとりました。不謹慎なことは承知の上ですが、とてもじゃないですがマトモに読むことなどできません。 ズバリ、推理小説のようなことは実際の殺人事件で行なわれているのか? という視点で読み進めていきました。 ……ホントに不謹慎です。しかし、何かとっかかりがないと何もつかめないのです。 で、探してみると意外にありました。よく、推理小説内で、「推理小説じゃあるまいし」と登場人物がぼやいていることがありますが、それは杞憂のようです(笑)。 以下、本筋の読み方ではありませんが、トリックめいたものを参考までにまとめてみました。 ◆番号1事件…アリバイ工作。(さらに被害者の最後の目撃者としてテレビ出演。模倣犯かよ!) ◆番号2事件その1…警察犬を撹乱するための”臭い移し”(被害者宅で盗んだ靴下と自分の靴を交互にはく)。 ◆番号2事件その2…返り血をさけるためパンツ1枚で殺人。 ◆番号8事件…暴漢に襲われたように見せかける死体の偽装工作。 ◆番号23事件その1…犯行現場をごまかすために証拠物件を各所に分散投棄。 ◆番号23事件その2…自らの身体にも傷をつけて被害者を装う。 ◆番号27事件…被害者が寝静まっていたかのように工作。 ◆番号28事件…目張りした部屋へのガス放出(一応、密室殺人)。 ◆番号35事件…いわゆる「あさま山荘事件」です。推理小説チックではないですが要チェックです。 (余談ですが、この事件の一審での判決理由で、「かくも多数人を殺傷して無法の限りを尽くした犯人は、醜態をさらすことを潔しとせず、勇者の最後にふさわしい名誉ある自決の道をとると思いきや」(p540)と、あたかも自殺するべきたった、というようなことを書いています。気持ちはおおいに分かりますが、それでも裁判官が言ってはいけない言葉だと思います。) ◆番号37事件…トラックごと路外に死体を遺棄して事故死を装う。 ざっとこんな感じですが、何がトリックとなるかは人によって違うでしょうからあくまで参考程度のものです。ただ、指紋を残さない、あるいはふき取る行為と、死体の身許を隠すために衣類を剥ぎ取る行為はたくさんあったので省略しました(嫌だなぁ…)。 それと、私の判断であえて書かなかったものもあります。いずれにしてもこれは邪道な見方です。これを死刑について本格的に考える足がかりとしてもらえれば幸いです。っていうか、普通に読むことがホントに困難な本なのです。 以上のように、本当に不愉快な本です。死刑制度の是非については沈黙してますが、ただ、こんな事例ばかり読んでしまうと、正直、死刑に反対するのは難しく思えてきます。 ただ、最初にも述べましたが、この本は必ずしもノンフィクションであるとは限りません。裁判という情報戦において死刑という結果を勝ち取った検察側の、勝者の歴史であることは否定できません。本書の著者の言葉を借りれば、死んだ事件なのです。 大切なのは、いまだ判決の出ていない生きた事件、あるいは、これから生まれるであろう事件に対してどういう態度で臨むのか、です。 折りしも司法制度改革にともない、一般市民も裁判員として裁判に関与する可能性が高まっている昨今です。殺人事件の裁判に関り、被告人に対し死刑の判決を下す過程に加わることも覚悟しなければならなくなるかも知れません。 そのときの準備のため、本書の価値はさらに上がっていくと思うのですが、それってどうなんだろう? とも思います。こんなこと、知らなくて済むのならそれはそれで良い気もするのですが……。 |