| プレシャス・ライアー |
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著者:菅浩江(すが・ひろえ) 出版:カッパ・ノベルス 初刊:2003 装丁:カバーデザイン 岩崎誠司 カバーイラスト 高橋三千男 定価:819円+税 ISBN4−334−07522−3 |
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[あらすじ] 金森詳子は、従兄の禎一郎の依頼でVR(ヴァーチャル・リアリティ)の世界でオリジナリティを探索していた。そのとき、「ソルト」と名乗るペルソナから攻撃を受ける。それから、VRだけでなく現実世界でも、詳子の身の回りで不思議な現象が次々と起こる……。 〔Caution!! ネタばれ注意〕 のっけから恐縮ですが、金森詳子って、金属の森の証拠、という意味でしょうか? 本書は、VR世界を舞台にした物語です。作者自らが述べているとおり、確かに手垢のついたテーマではあります。しかし、普通のVRものとはアプローチの方向が反対です。普通は、まず現実世界があって、そこからVRにのめり込んでいって、次第に現実とヴァーチャルの区別がつかなくなる、という展開をたどっていきます。 ところが、本書の場合、ヴァーチャルから現実世界へのめり込んでいく、というわけで、敢えてこのテーマに取り組んだ作者の意欲が感じられます。まさに”プレシャス・ライアー”です。 超高性能AIが現実を理解する過程の物語なわけですから、人間である読者には関係なさ気ではあります。そのはずなのですが、なぜかそうは思えません。 確かに存在したはずの”過去”の記憶は曖昧で、それを思い出すという作業は、それこそVRと変わりません。”現在”の風景は圧倒的な情報量迫りで、眼前に拡がっていてるものですら認識しきれない一瞬です。「今」だと思ったときには過去になってしまうおぼろげなものです。そして、不確定で曖昧な”未来”はもちろん現実ではありません。 つまり、VRと対比される我々の”現実”とはその程度のものでしかないわけで、喫茶店(5章)で詳子が過去を疑い、現実に酔い、未来の不確定性を恐れる姿は、まさに人間そのものなわけで、そのことを自覚することが、作者のいう「次の目覚めを少し奇妙に感じ」る(カバー折り返しの著者の言葉より)ということなのでしょう。まっこと、恐ろしい企みです。 もうひとつ恐ろしいのは、本書に登場する高性能AIがそれほど無理な設定ではない、という点です。 作中に出てくる量子コンピュータとカオス・コンピュータ。 アイヨシは理系の素養が限りなくゼロなので、それらがどれくらいスゴイことなのか良く分かりませんが、量子コンピュータの方は実用される日が近いみたいです(こんなSFみたいなモンが……)。 (カオス・コンピュータについては、いくら読んでもサッパリ理解できないのですが(泣)、これはもうしばらくかかりそうです。正直、ちょっと安心です。) ただ、こんなこと思うのは理系オンチのアイヨシだけかもしれませんが、疑問があります。それは、作中で語られる量子コンピュータの不死性です。 すなわち、本書では、神とAIの類似点として、1.人間によって創作された、2.人間以上の能力を持つ、3.人間と同等の「心」を持つと仮定されている、4.不死性、以上の4点が挙げられています(本書p172より)。 で、不死性というのは、たとえ物理的な意味でハードを破壊したとしても、そこかしこにバックアップをとっておくことによって延命を図ることができます。インターネットがこれほどまでに発達した現在では、これは容易なことです。 ところが、アイヨシの乏しい知識によりますと、量子コンピュータというのは、このバックアップをとる、ということができないはずなのです。 というのも、量子コンピュータが自らをコピーするためには自分自身を参照しなければならないのですが、このとき、量子コンピュータはオリジナルのデータを破壊せずにコピーをすることはできない、らしいのです。 すなわち、多分ですが、メモリーとして量子力学的な素子、つまり電子のスピンを使っている量子コンピュータは、不確定性原理により、(0,0)・(0,1)・(1,0)・(1,1)の情報量を持つことができるのですが(通常のコンピュータは0or1)、自分自身を参照するために自らを観測してしまうと、その途端に不確定な情報が不確定でなくなってしまうことが原因だと思うのですが…… あ〜、良く分からん!! と、とにかく、量子コンピュータは自分のコピーを作れないらしいのです。ただ、全くのコピーとはいかなくても、だいたいのコピーを作ることができるのであれば、それは不死ではないので神とは言えませんが、ひとつの生命としての”種”の誕生といえるのかなぁ、などと妄想めいたことを考えています(笑)。それはそれで怖そうですし……。 (ちなみに、上記の疑問は、橋元淳一郎・著、ハヤカワ文庫「カメレオンは大海を渡る」p246〜248を参照し、それにアイヨシの妄想を付加しています。) まあ、SFはあくまで虚構なわけですから、少しくらい分からないことがあった方が面白いわけで……、アハハハハ(←言い訳)。 ※量子コンピュータについてもっと知りたい人は、こことかこことかここを参照なされると良いと思います。 |