| 言の葉の樹 |
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原題:THE TELLING 著者:アーシュラ・K・ル・グィン(Ursula K.Le Guin) 訳者:小尾芙佐(おび・ふさ) 出版:ハヤカワ文庫 初刊:2000 装丁:イラスト 小阪淳 定価:700円+税 ISBN4−15−011403−X |
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[あらすじ] 科学技術の発達した惑星連合エクーメンとの接触後、圧制の下、詩や小説、歴史書、哲学書などあらゆる書物が焚書にされている惑星アカ。 そんな惑星アカに観察員として地球から派遣された若き女性サティが知った伝統文化〈語り〉とは……。 ……何と言いますか、今回はあんまり理屈っぽいことは言いたくないのです(笑)。 もう、最後の3行の美しさと言ったらないのです。 だからといって、その3行だけ抜き出す、なんてことをしたらぶち壊しです。本書を最後まで読んだ人間にのみ与えられる素晴らしい特権です。 本書は、『闇の左手』と同じく、「ハイニッシュ・ユニヴァース」シリーズを舞台にしたものです。 もっとも、シリーズといっても各作品はあまり関係性がない(本書はとくに他作品との独立性が高いです)ので、単品でも問題ないです。 文化人類学的手法を駆使した世界観の構築とそれに基づく考察こそがル・グィンの真骨頂です。「ハイニッシュ・ユニヴァ―ズ」シリーズでは、多様で示唆に富んだいくつもの人類社会が形成されていますが、この壮大な設定はそうした手法を最大限に生かす実験室として最適のものだといえます。 この作品も、その得意とする手法で独自の世界観を生み出しているのですが、どうも、その世界観の設定に、オウム真理教とかタリバーン、北朝鮮など、何だか危ないことを連想させるようなところがチラホラ散見されます(そもそも、”アカ”という惑星名すら、日本語として考えてしまうと意味深なものになってしまいます)。 果たしてこれは、ル・グィンの純然たる思考実験の結果なのか(だったらものすごく怖いですが)、それとも、現実を認識した上での作者の問題意識・危機感がこうした世界観の作品を書かせたのか?そこのところは私には分からないのですが、とにかく、21世紀初頭を生きる人間としてはいろいろと考えさせられる世界観がそこには描かれています。 いずれにしても、ル・グィンという作家の凄みは、ハード面ではなくソフト面でのSF的考察の深さにあることは間違いないと思います。 本書に限ったことではないのですが、異文化の交流という問題は、個と個の問題に終着します。本書で言えば、エクーメンから派遣された観察員サティと、彼女を監視する職務を与えられた監視員ヤラとの交流が結局のところ全てなのです。 本書は、サティの視点、一人称で語られますが、サティが地球で過ごした”過去”と、観察員として惑星アカで過ごしている”現在”とが交互に語られる構成となっています。 そのため、読者としては、サティの抱える苦悩、過去に負った心の傷を少しずつ少しずつ知ることになります。あたかも、ヤラがサティのことを知るが如く。一人の視点で描かれているにもかかわらず、サティから見たヤラだけはなく、ヤラから見たサティという、本来語られていない視点、味わうことのできない感覚(錯覚?)を得ることができるのです。 そうした、互いが理解し合う過程を、双方向一緒に追体験できるという稀有な構成が本書では採られているのです。 文章自体は繊細ながらも淡々とした、押さえた感じのものです。しかし、だからこそ、最後の詩的な3行が輝いてきます。そう、最初にも書きましたが、つまりこの書評は最後の3行の感動を伝えるためだけのものです。 驚きもなければ意外でもなく、鮮やかなものでもありません。しかし、最高なのです。 とはいえ、あまり期待しすぎるとかえって興醒めなのは経験則からいえます。てなわけで、本書に興味を持っていただけた方は、素直な気持ちで最後まで読んでいただけれ良いと思います。 |