| 闇の左手 |
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原題:The Left Hand of Darkness 著者:アーシュラ・K・ル・グィン(Ursula K.Le Guin) 訳者:小尾芙佐(おび・ふさ) 出版:ハヤカワ文庫 初刊:1969 装丁:カバー 辰巳四郎 定価:680円+税 ISBN4−15−010252−X |
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[あらすじ] 遠い過去に取り残された人類の植民地、雪と氷に包まれた<冬>の惑星ゲセン。この惑星では、遺伝実験の結果生まれた人類の末裔が両性具有の特異な社会を形成していた。この惑星と外交関係を締結すべく、惑星連合エクーメンはゲンリー・アイを使節として派遣する。しかし、文化の壁に阻まれ交渉は遅々として進まず、やがて彼は逮捕・投獄されてしまう…。 本書は、いわゆる「ハイニッシュ・ユニヴァース」シリーズを舞台にしたものです。 「ハイニッシュ・ユニヴァース」とは、惑星ハインから宇宙へと進出した人類はさまざまな惑星を植民地としますが、文明の衰退によって各植民地との連絡は絶たれ、やがて忘れられていきます。それから時が経ち、再興を遂げたハイン文明は<失われた植民地>の探索を開始しますが、各惑星は長い時の流れの中で独自の文化を発展させていた…。というお話です。 実も蓋もない言い方をすれば、異文化同士の交流と摩擦がテーマのシリーズです(笑)。 タイトルである『闇の左手』。それは、この世界にある様々な対立項の存在を象徴しています。 闇と光、左手と右手、そして男と女。これらのモチーフは、既存の神話や宗教においては、両極に位置し、対立する存在として扱われがちです。 しかし、本書、ひいてはル・グィンのスタイルはそうではありません。対立する存在ではなく、均衡を保つことによって共存することのできる存在としての理解が親和的です。すなわち西洋的な見方ではなく東洋的なもの(”闇と光”ではなく”陰と陽”)と言い換えることができます。 灰色でハッキリしてない、という言い方もできますので、勧善懲悪もののような分かりやすい話が好きな人にとってはイマイチかも知れません。カタルシスはないです(笑)。でも、私個人としては、この割り切れなさが好きなのです。 文化人類学的な手法を得意とするル・グィンならではのスタンスだといえるでしょう。 両性具有の人間との交流、などと書いてしまうと、何かドロドロしたものを想像されるかもしれません。 しかし、少々ネタばれになってしまいますが、そういうことは一切ありません(そういう意味では、『言の葉の樹』の方がドロドロしてます)。それはそれで、せっかく”性”をテーマにしておきながら物足りないと思われる方もいるかも知れませんが、それも違います。 何と言いますか、この”何もなさ”が良いのです。 逮捕・投獄されたゲンリー・アイ(人間・男性)は、彼を支持したために失脚した宰相エストラーベン(人間・両性具有者)に救出され、厳冬の氷原に二人だけで旅をするはめになります。 二人っきりです。でも、何もない。プラトニックなものもないです。ないけど、あります。 ……何を言ってるんだこいつは?と思われますか?でもそうなのです。 ”性を超えた”と一言で言ってしまうと、空疎で陳腐な響きになってしまうのですが、でも、そういう関係なのです。微妙な人間関係に淡々とした描写、繊細だけど容赦ない筆がおりなす雰囲気は、それはそれは厳粛で冷たくて…(←誉めてる?)。 もちろん、両性具有者の生物学的構造や、彼(?)らの形成する性差のない社会システムについての思考実験など、ソフト・ハード両面でのSF的な仕上げも完璧です。 全二十章のうち六章がゲセンの伝説・民話で構成されていますが、そうした構成は作品全体に奥行きと活力を与えています。 とにかく、SFとして傑作なのは間違いないですが、そうしたジャンルの枠を超えて、これから先も間違いなく読み継がれていくであろう作品です。 [※補足] 本書と同じく惑星ゲセンを舞台にした、姉妹編にあたる作品「冬の王」が、短編集『風の十二方位』(ハヤカワ文庫)に収録されていますので、興味のある方は是非。 |