| きみにしか聞こえない(CALLING YOU) | |
| 著者 乙一(おついち) 出版 角川スニーカー文庫 初刊 2001 装丁 イラスト 羽住都 デザイン 小倉敏夫 定価 562円+税 ISBN4−04−425302−1 |
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この本には3つの短編が収録されています。肉体的にも精神的にも ”痛い”話ばかりです。おそらく”痛み”がテーマの短編集だと思います。 以下は、各作品について思ったことをつらつらと。 ちなみに、もう当たり前のようにネタばれです。一応反省しているのですが…。 おまけに、『殺人交叉点』(※註)という、本書とは直接関係ない作品のネタまでばらしてしまっています。未読の方はくれぐれもご注意下さい。 Calling You 表題作。『Calling You』は着メロには向かないと思います(笑)。 収録作品の中では一番受け入れがたい作品。 時間ループのオチはいいのですが、卵が先か鶏が先かの議論はともかくとして、この主人公にはこういう事態を回避するすべがあった、少なくともそうならないようにあがくことができたと思うのです。 それがなかったということは、こういう結末を、悲しみながらも大切に想っているということになると思うのですが…。 〔補足〕 この疑問を後日フジモリにぶつけたところ、「きっと主人公には新しい彼氏ができたんだよ」という解答をもらいました。一瞬絶句してしまいましたが、確かに、そう考えれば納得がいきます。恐るべしフジモリ!!(笑) 傷―KIZ/KIDS― 体の傷を自由に移し変える能力を持った少年とその親友のお話。 体の傷を移し変えることはできても、心の傷を移し変えることはできない。 でも、それを分かち合うことはできる、というのがラストの意味でしょう。 いくら何でも死ぬんじゃないか?と、読んでて思ったのはナイショ(笑)。 偽善者ぶるでもなく、かといって偽悪者ぶるでもなく、この距離感が好きです。 華歌 収録作品中の白眉。 この作品について述べている作者自身のあとがきによれば…、 企画を出したとき、みんなが不安になりました。スニーカー的でなく、スニーカーの読者が好む話とは違うように思われたからです。 (中略) それでもスニーカーでこれをやりたかったのは、羽住都先生の描く「花」のイラストが見たかったという、ただそれだけでした。 (本書あとがきp199より) とのことですが、自慢じゃないですが私は疑い深い性格なのです。 そんなわけで、乙一のあとがきはとても面白くて個人的には大好きなのですが、100%信用することなどできません。そうですね、70%くらいの信用度でしょうか?(笑) 例えば、この作品を創元推理文庫で発表したとしたら、読者には身構えられて、あげくに徹底的にミステリ的な読解がなされることになると思います(それが悪いという意味ではありません)。 だから、多分スニーカーでやりたかったんだと思います。かくいう私もスッカリひっかかりました。 でも、言い訳がましいようですが、作者としては、どうしても読者に引っかかって欲しかったのだと思います。その必然性が、この作品の場合にはあると思うからです。 この手のトリックを使った一番最初の作品は、おそらく『殺人交叉点』で、他にもメフィスト賞を受賞した某作品などが思い当たります。これらの作品の場合、犯人は誰か?という問いとリンクした形でこのトリックが活用されているため、読者としても、「やられた!」と思いつつも納得できるわけです。 ところが本作品の場合、確かに矛盾はない(これがスゴイ)のですが、そもそもの問題提起がなされていない不意打ちなのです。そんなわけで、真相が明らかになったときにあるのは驚きと戸惑いです。 で、どういうことかと思って再読することになります。 初読時には主人公を男性と思っていて、そのときには、”花”の愛で方が、趣味が悪いような、どことなく愛玩動物に接するのと同じような感じを持ちました。 ところが、女性だと思って再読すると、随分変わってきます。我が身の一部を失ったという喪失感とそれを埋め合わせるための代償行為で、さらには、”花”を持ってくるという行為が、赤ん坊を誘拐する行為の比喩にまで思えてきます(これはさすがに深読みしすぎか)。 上手く言えないのですが、子どもの命に対する男女の認識の差というようなものを表現するために、本作品の仕掛けがあるのだと思います(もっと深い意味があるようにも思うのですが…)。 ですから、私としては、この作品は、ミステリの観点から読んでも面白い作品だとは思うのですが、でも、目的のためにミステリの手法を応用したのが本当のところだと思うので、やっぱりスニーカーで発表したのは正解だと思います。 凝った趣向と、それに負けないテーマを持った、実に読み応えのある作品で、本当にオススメの作品であるとともに、他の人がどう読んだのかも気になります。 ※註 『殺人交叉点』 原題:NOCTURNE POUR ASSASSIN 作者:フレッド・カサック(Fred Kassak) 訳者:平岡敦(ひらおか・あつし) 初刊:1957 出版:創元推理文庫 装丁:カバー 虎尾隆 定価:740円+税 ISBN4−488−20513−5 フランスのミステリで、フランス・ミステリ批評家賞受賞作品です。この作品の仕掛け、驚きのエンディングは割と有名で評価も高いので、未読の方はネタばれの被害を受ける前に読むことをオススメします。 もっとも、こんな風に比較対照してしまいますと、どちらか一方だけ読んだ人にとっては、もう一方の作品について、事実上ネタばれされたことになるおそれがあります。こればっかりは申し訳ないです。 この書評に出会ったことを不幸だと思って諦めて下さい(コラコラ)。 ▲戻る |