ラモックス ザ・スタービースト
原題:THE STAR BEAST
作者:ロバート・A・ハインライン(Robert A. Heinlein)
訳者:大森望(おおもり・のぞみ)
初刊:1954
出版:創元推理文庫
装丁:カバーデザイン 矢島高光
   イラスト・挿絵 あまのよしたか
定価:860円+税
ISBN4−488−61808−1

[あらすじ]
 スチュアート家に代々受け継がれているペットは、でかくて食いしん坊で気のいい宇宙怪獣だった。名前はラモックス(のろま)。
 ある日、彼は飼主であるジョンの留守中につまみぐいに出かけてしまうが、小さな田舎町は大パニック!それはやがて、地球の命運をかけた前代未聞の外交問題に発展する…。



 面白い!とにかく面白い!
 エンターテイメント性は抜群です。このままアニメ化しても面白そうだと思いました。子供から大人まで、皆が楽しめる作品です。
 まず、ラモックスがかわいい(笑)。呑気で食いしん坊で、ばかでかくて力持ちの困ったやつですが、義理人情には厚く、でも、わけの分からない宇宙人です。これだけでも一読の価値はあると思いますし、子供にも喜んでもらえるはずです。

  しかし、本書の魅力はそれだけではなく、SFとしても実によく練られています。
 未知の宇宙人との交流という、SFの王道のテーマですが、よくあるのは宇宙人と人類の心の交流がメインとなる心温まる物語、というものです。もちろん、本書だって心温かくなるのは間違いないのです。
 でも、本書のすごくて面白いと思ったのは、宇宙人と人類の交流によって生じる法的・行政的問題がかなり丁寧に書き込まれているという点です。
 今の地球上のほとんどの国家では、人間には憲法で人権が認められています。そうでない生物は、どんなに可愛くても人権は無いので、物体扱いすることが可能です。この理論をそのまま宇宙人に適用しますと、外交関係はお終いです(笑)。
 そんなわけで、本書の物語世界では、人類の定義は拡張されたものになっていますが、その分だけ実際の適用にあたっては、解釈による問題解決の必要が生じることになります。あまりに解釈を拡大し過ぎますと、生類憐れみの令のときのお犬様みたいになりますし…。責任者は大変です(笑)。
 その責任者が、地球の諸文明統合連邦政府の宙務省常任次官であるキク氏です。このキク氏、本書における事実上の主人公です。
(本当の主人公は、ラモックスの飼主であるジョン・スチュアートという青年です。)

 とにかく、行政官僚のお手本とでもいうべき人物で、生理的に受け付けない宇宙人とも笑顔で接し、山積する難問奇問珍問をつぎつぎとさばいていきます。
 そんな彼がもっともてこずるのが、自分の政府の無能な政治家だというのは、皮肉がきいてて面白いです。
 太陽星系の危機的状況に際して、キク氏は豪腕を発揮して局面をリードしていきます。まさに理想的な行政官僚なのですが、そうした彼の行動は民主主義・三権分立の精神からすれば決して好ましいものではなく、そのことはキク氏自身も自覚しています。それでもやらなければならないというジレンマは、物語をピリッと引き締めてます。

 そんなこんなと、いろいろあって迎える大円団には大満足です。SFですけど、ジャンルの枠を越えてオススメできる作品です。



 ところで、ネタばれまがいの深読み(未読者注意!)ですが、物語の最後の方で、ソフトに人種差別っぽいセリフがあります(p422)。ここだけ取り出すと問題かもしれませんが、物語全体のテーマとなっている異星人との交流の問題に比べれば、人類間の人種差別などナンセンスです。前述のセリフも、作者のそうした意図があってのものでしょうし、実際読んで不快感どころか爽快感を覚えました。
 ただ…本書の初刊行年を見てみますと1954年で、訳者・大森望のあとがきによりますと、発表されたのは1952年です。そして、作者ハインラインはアメリカの作家です。つまり、公民権運動の黎明期ともいえる時期にアメリカでこの作品は発表されているのです。それを考えますと、本書の根底には、人種の平等という想いが込められているのでは…などということを考えました。根拠はないですけど(笑)。
(もし、本書についてのハインラインのインタビューとか、内幕をご存知の方がいらっしゃいましたら、教えていただければ幸いです。)
 でも、キング牧師が暗殺されたのは1968年で、その他にも公民権運動ではたくさんの犠牲者が出たことを考えますと、だとしたらスゴイことだと思います(あくまで勝手な推測ですが)。

 

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