殺竜事件(a case of dragonslayer)
作者:上遠野浩平(かどの・こうへい)
出版:講談社ノベルズ
初刊:2000
装丁:イラスト 金子一馬
定価:880円+税
ISBN4−06−182135−0

[あらすじ]
 人知を超えた力を有する、無敵の存在であるはずの竜が、何者かに刺殺された。その力を利用して戦乱の講和を目論んでいた戦地調停士のエドは、その謎を解明するために仲間たちと世界を旅することになる…。



 ファンタジーとミステリーの二重奏を”売り”とした七海連合シリーズの記念すべき第1作です。
 何といいますか、個人的な意見なのですが、良質のミステリというものは現実を舞台にしながらも、良い意味で、それまでの世界観をぶち壊すことで、現実離れした浮遊感を与えてくれるものだと思います。ですから、わざわざファンタジーを強調して異世界を持ち出さなくても良いような…。
 しかも、ファンタジーというのは、何でもありの可能性を秘めていまして、それはそれでとても魅力的ですが、ミステリにとってはかなり厄介です。伏線も論理も台無しになるおそれがあるからです。したがって、ファンタジーとミステリーの相性はそんなに良いものだとは思いません。それを、一発ネタとしてではなくシリーズ化しようとは…。かなり無謀な試みに思います(笑)。
 さらに、両者を両立させるために、ファンタジーならではの法則を創造・設定してミステリー性を確保するという方法は考えられます。逆にいいますと、ミステリを書くためにファンタジーを従として考えるやり方です。しかし、本書で使われているトリック・ロジックは他に使い回しが利くようなものではありません。そんなわけで、ミステリーかファンタジーか、素直にどっちかにすれば良いと思いますが、きっとそこには作者の意志・意図があるものと思いますので、読者としてはそれを楽しみにすることにしましょう。

注!以下、ネタばれです。

 で、肝心の本書の内容についてなのですが、とても面白かったです。
 被害者は竜というファンタジー舞台ならではのものです。しかし、『紫骸城事件』や『海賊島事件』と異なり魔法に頼っていない殺害方法にとても好感が持てます。赤ん坊を使うというかなりエグイものですが、モラルが邪魔をして、なかなか意表をつかれました。かなり好印象のトリックです。
 さらに、死した竜の脅威についての談義などは、人(この場合は竜ですが)の死をゲームチックに考えながら、逆説的に生というものを問い直すことにつながっており、実はなかなか本格ミステリ色の強い作品になっていると思います。
 もっとも、クリストフに真相を隠すため、エドは竜の自殺説を打ち立てますが、その自殺説で納得されてしまうのがどうも…。だって、具体的な殺害方法が明らかになっていないのに、そんな説に説得力があるでしょうか?この点はちょっと不満です。
 他にも、ミステリとしての出来がいいので、シリーズのための伏線など、読んでて正直無駄に思える箇所もありますが(笑)、でも、それを差し引いてもオススメの一冊です。


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