幽霊たち
原題:GHOSTS
作者:ポール・オースター(Paul Auster)
訳者:柴田元幸(しばた・もとゆき)
出版:新潮文庫
装丁:カバー装画 五十嵐仁之
初出:1986
定価:400円+税
ISBN4−10−245101−3

[あらすじ]
 私立探偵ブルーは、いかにも変装した外見の男ホワイトから奇妙な依頼を受ける。ブラックを一日中見張るようにと。用意された部屋からブルーは見張りつづける。しかし、何も起こらない…。



 全体にして122ページの短めの作品です。主要な登場人物もブルーにホワイト、そしてブラックだけです。加えて、訳者を初め3人の解説が巻末についてますから、アイヨシが語るべきことはあまり多くありません(笑)。まあ、余談として読んで下されば幸いです。
(でも、ネタばれです。)

 ブルーはホワイトから、ブラックを見張ってその生活を調査報告書として送るように依頼されます。

 奇妙な以来だと思いながらも、ブルーはブラックを見張り、報告書をホワイトに送ります。一体何のために?ブラックとは何者?

 しかし、見張れども見張れどもブラックは何か本を読んでいるだけで、何の変化もありません。

 何も起きませんが、いや、だからこそ、次第にブルーの心中は焦燥に駆られていきます。過去を思い出し、空想に彷徨い、現在を無為に過ごします。(このところの描写が、本書の一番の読みどころです。)

 そして、ついにブルーは決心してブラックの部屋に入り込みます。そこには、ブルーの書いた調査報告書がありました。ブラック=ホワイトに対してブルーは問います。

「一体何のために?」

ホワイトは答えます。

「自分が何をしていることになっているか、私が忘れないためにさ。…君は私にとって全世界だった」

 書くというのは孤独な作業だ。それは生活をおおいつくしてしまう。ある意味で、作家には自分の人生がないとも言える。そこにいるときでも、本当はそこにいないんだ。
(本書p82より引用)


 読者についても同じことがいえるでしょう。マンガ『サイボーグ009』で、電車の中で座って本を読んでいる乗客が、目の前で立っている老人に気付かないことに対する009の嘆きを想起させます(マニアックでゴメンなさい・笑)。

 ブルーにホワイト、そしてブラック。何とも個性の無いネーミングです。

 黒く印字された白い紙の束、ブラックとホワイトのコントラストの集合体、それが本です。それがブラックとホワイトの正体。

 読者あっての本。作者は幽霊。読者として選ばれて、ブラック=ホワイトの"解説"を書いたブルーもまた幽霊。消えゆくブルー。その幽霊が書いた本が本書…ということでしょうか?

 冒頭に「時代は現代」とあるのに、終わりの方には「30年以上も前に起きたこと」とあります。

 時間の流れを無視した物語を読んだで、こんな文章を書いているアイヨシの存在も、やはり幽霊以外の何者でもない…。どこもかしこも幽霊だらけ。というのが作者の意図でしょうか?

 多分そうだと思いますが、よく分かりませんし、不思議で危険な本です。でも、それだけに面白いです。


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