| ブラック・エンジェル |
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| 著者 松尾由美(まつお・ゆみ) 出版 創元推理文庫 初出 1994(光風社出版) 装丁 カバーイラスト 遠藤律子 カバーデザイン 東京創元社装幀室 定価 620円+税 |
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[あらすじ] 一枚のCDから突然"黒い天使"が現れたかと思うと、その場にいた5人のマイナーロック研究会の1人、岡埜映子(おかの・えいこ)を殺してしまった!あの天使はいったい何だったのか?何故、岡埜が殺されなければならなかったのか? ミステリとしてもファンタジーとしても青春小説としても読めるハイブリッドな一品。 「ミステリとファンタジーと青春小説が渾然一体となった異色長編」というのは、本書のオビや最初の頁のあらすじにもある表現です。 決して間違いではないと思うのですが、だったら、”ミステリ”としての見方はあえて伏せておいた方が親切なように思います。創元推理文庫である時点で、すでに”ミステリだぞ宣言”なのですから……。 ”ファンタジー”も、まあ、「ハリー・ポッター」や「指輪物語」が話題をさらった昨今ですから、商業的に言いたくなるのも分かる気はします。確かに、”黒い天使”の存在は結局理屈では説明されませんし。 しかし、”黒い天使”が出てくるというだけ(?)で、本書はそれ程ファンタジーな物語ではありません。むしろ、登場人物たちのものの考え方はとてもシビアですし、どっちかと言えば現実的な物語です。(あまりファンタジー性を強調してしまうと、その手の話が苦手な人に敬遠されてしまうおそれがありますし……。) まずは、”青春小説”です。青春小説の登場人物特有の複雑な人間関係、心の揺れ、そういったものがある程度書けていることが大切です。 そして、そうしたものを土台として、本書はミステリとして成立しているのです。もっとも、犯人は”黒い天使”で決まりです。本書の謎は一点。「なぜ彼女はCDから現れた天使に殺されなければならなかったのか?」です。その場には被害者の他にも4人いました。その中で岡埜映子が殺されたのには何らかの必然性があるのか。マイナーロック研究会員は”黒い天使”の正体と、岡埜映子について調査を始めます。 調査が進むにつれて、他にも”黒い天使”に出会ったことがあると思われる人物の存在が明らかになります。そして、”黒い天使”との出会いは、確かに何らかの影響を与えているらしいのですが、その共通項はなかなか見えてきません。本書はミッシング・リンクの物語として展開していきます。 ”動機”を謎解きの主体とするミステリー作品のほとんどは、複雑な社会問題を告発・啓発する方向で絵解きがされていきます。いわゆる”社会派”といわれる推理小説が典型的な例です。 しかし、本書は違います。動機探しの物語であるにもかかわらず、そこにはパズラーならではの爽快感があります。本格ホワイダニットミステリという、天然記念物ものの作品なのです。 あと、本書では音楽、とくにロックについて、ドアーズとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドとか(知らねー・笑)、結構熱く語っている箇所が多くありますが(マイナーロック研究会なので)、アイヨシは無知なので何ともいえません。この方面に詳しい方なら、アイヨシよりも本書を楽しむことができるかもしれません。 ※以下ネタばれです。未読の方は危険ですので退避して下さい。 明らかになった真相は鮮やかなものですが、しかし、何ともいえない苦々しさも感じます。そうした印象は、真相解明後の”蛇足”ともいえるエピソードでより一層深まります。このオチは確かに予測可能ではありますが、しかし、う〜ん……。それに、森井とのキスシーンも唐突というか、不自然というか、他に方法があったような気もしますし……。でも、こんな三枚目なラストも、青春小説っぽくて良いような気もします(ハッキリしろ・笑)。 ミステリとしては少々不満な点もあります。せっかくの見事な真相なのに、探偵役の絵解きの方法がイマイチです。せっかく目の前にワトスン役がいるのですから、頭の中で解決するのではなく偉そうに演説して欲しかったです(笑)。しかし、そうしてしまうと、おそらく加山と大垣が喧嘩別れしてしまうことにはならないわけで、それではオチと上手くつながらないかもしれません。 再読しますと何だかハッキリしないことばかりで、苦々しさともやもやした感じが際立ちます。ミステリとしての真相は鮮やかなのに、その他は何だかハッキリしない小説。それこそ、本書がミステリとして、かつ青春小説として一級品であることの証なのかもしれません。 |