| 伯母殺人事件 |
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| 原題:THE 12:30 FROM CROYDON 著者:リチャード・ハル(Richard Hull) 訳者:大久保康雄 出版:創元推理文庫 装丁:カバー撮影 板橋利男 カバーデザイン 小倉敏夫 初刊:1934 定価:800円+税 |
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[あらすじ] エドワードの祖母は資産家であったが、その死に際して遺言で彼の伯母を財産管理人に指定した。その遺言によれば伯母が生きているうちは財産は彼女のものであり、エドワードが伯母と住んでいる限りは給与金という形で一定額がエドワードに渡るが、彼が伯母との同居を拒否したら財産の相続権を失うというものであった。エドワードを厳しく管理しようとする伯母に反感を抱く彼は、伯母を殺害して財産を手にしようとするが…。 『殺意』(フランシス・アイルズ著 創元推理文庫)と『クロイドン発12時30分』(F・W・クロフツ著 創元推理文庫)と並んで倒叙ミステリ三大名作とされている作品です。 しかし、他にも倒叙ミステリがある中で、どうしてこれらの3作品を"三大倒叙ミステリ"とするのかはよく分かりません(コラコラ)。多分、江戸川乱歩が絡んでいると思うのですが…。ハッキリしたことが分かったらこの文章は改訂します(笑)。 本書が他の2つの倒叙ミステリと大きく異なる点は、主人公であるエドワードが無能だという点です。他の作品は犯人がそれなりに知恵を絞っているので、真相を隠す側と暴く側との客観的・心理的な駆け引きが見ものなのに比べて、本書の場合は主人公がちょっと抜けているので、その分ユーモアのある作品として楽しむことができます。 ところで、本書の背表紙にある"あらすじ"ではエドワードのとった手段を"可能性の犯罪"と表現しています。しかし、これは適切ではないと思います。"可能性の犯罪"とは、「『こうすれば相手を殺しうるかもしれない。あるいは殺し得ないかもしれない。それはその時の運命にまかせる』という手段」(江戸川乱歩著 現代教養文庫「探偵小説の『謎』」p98より引用)のことです。一般には"プロバビリティーの犯罪"と言われているものです(プロバビリティーの犯罪について詳しくは「探偵小説の『謎』」p98以下「プロバビリティーの犯罪」の章を参照)。確率的に死に至る可能性の少しでも高い状況に被害者を追い込むことによって自らの手を汚すことなく目的を達成しようとする犯罪手段のことです。このトリックを使った日本の作品としては谷崎潤一郎の『途上』(中公文庫 「潤一郎ラビリンス[ 犯罪小説集」収録)が有名です。 しかし、本書でエドワードが伯母の殺害するためにとった方法はかなり直接的なもので、とても"可能性の犯罪"と呼べるものではないと思います。稚拙で目的達成の可能性の低い犯罪という意味では"可能性の犯罪"といっても間違いではないかもしれませんが(笑)。ただ、言葉の混乱を避けるためにも、このような場合を"可能性の犯罪"に含ませるべきではないしょう。 で、本書の内容について少し触れますと軽めのネタばれになってしまいますが、本書を「傑作倒叙ミステリ!」などと倒叙の部分を過度に強調して喧伝するのは実はフェアではありません。倒叙形式にこだわったことは間違いないのですが、実は…ムニャムニャ(笑)。 ということで、あまり詳しいことはいえないのですが、本書は「読者を驚かすためには何をしても良い!」というミステリ小説らしい一面を感じさせられる作品です。 ミステリ小説特有の魅力的な謎の提示や論理的カタルシスという面では物足りなさは残りますが(道徳的カタルシスという面でもちょっと…)、ユーモア溢れる文体と一発芸ともいえるラストの技巧の両方を楽しむことのできる好著です。 |