| 殺人鬼 |
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| 作者:綾辻行人 出版:新潮文庫 初刊:1990 装丁:カバー装画:西口司郎 カバー装幀:多田和博 定価:514円+税 |
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[あらすじ] 夏季合宿のため双葉山を訪れたある親睦団体「TCメンバーズ」の一行は、そこで日本犯罪史上もっとも特異で陰惨な殺人事件の犠牲者となる。突如出現した謎の「殺人鬼」によって行われる狂気の行為。四肢は宙を舞い、血が飛び散る!眼球は抉り出されて内臓も引っ張り出される! 本格ミステリ作家の第一人者として知られる綾辻行人が送る戦慄の本格ミステリにしてスプラッタ・ホラー小説! 「ミステリー的状況なら、いずれ合理的な解答が導き出されることだろう。SF的状況なら、多少われわれの常識と異なるにしても、それなりに整合性のある論理的な結末が与えられるだろう。だが、ホラーだと、そういったものは求めようがないね」 「そういうものですか」 「それはそうさ。ホラーは感情の激動を目的とするものであって、その原因を解析するためのものではないからね。状況を論じること自体が、そもそも的はずれというものさ」 (田中芳樹著・徳間ノベルズ「夏の魔術」p70以下より引用) …というわけでホラー小説ですが、内容については特に何も言うことはありません(笑)。せいぜい、食前食後に読むべからず、就寝前もダメ、電車の中でもダメ、本書について人と話をする際には相手を選びましょう、ということくらいです。 残虐シーンのオンパレードなので、そうしたものが苦手な人にはオススメできないのですが、反面、作者はきっとそうした人にこそ読んで欲しいと思っているはずです(笑)。 とにかくスゴイ小説です。綾辻行人といえば何と言っても本格ミステリ作家として有名な作家で、その本格指向と透明感のある文体とが相俟って、『本格ミステリの優等生的イメージが強い』(大森望による本書解説p309より)作家として知られている綾辻行人が、透明感あふれる文体はそのままにぐちゃぐちゃなホラーを書いたらこんな酷いものになりました。 いや、これも立派な技術です。ここまで書ける人間はそうそういないでしょう。とにかく酷すぎます。被害者の主観と客観的な残虐行為の描写との切り替えが絶妙だと思います。綾辻行人の"小説家"としての技術の真髄が濃縮された作品です。 本書の内容はいたってシンプルなものです。『13日の金曜日』の小説版といってしまえばそれまでのお話です。しかし、それにもかかわらずこんなに陰惨で滅茶苦茶なのがすごい!奇をてらうことなくホラーの王道を歩んだのが見事に成功を収めています。 一応、本格ミステリ作家らしい"仕掛け"は施してあります。しかし、そんなものはどうでもいいです。いや、どうでもよくはないので確認するために再読しましたが、そこでも目が行くのはスプラッタな残虐シーン!やっぱりどうでもいいです。理屈抜きのホラー小説です。こんなものが残虐描写の免罪符になるわけがありません(笑)。 …しかし、こんなに酷い話なのに面白い! 何ででしょうね?良くも悪くも夢中になれる本というのはそれなりに充実した読後感が得られるものですが…。しかし、大声で他人に吹聴できるような面白さではないことも間違いありません(笑)。 本書は作者のあとがきでも触れられていますが、折しも幼女連続誘拐殺人事件に端を発したホラー・バッシングの最中に連載されていたものです。そうした時期にこうした物語を連載するということは、半端な気持ちで出来るものではありません。それだけの"想い"が本書には込められていると言ってもよいでしょう。 (ちなみに、双葉山という仮想の山を舞台にした本書の物語は、綾辻行人の他の作品『暗闇の囁き』(祥伝社文庫など)内における"ある事実"についての真相となっています。興味のある方はそちらの方もご覧下さい。幻想的なサイコ・サスペンスとでも言うべき不思議な読後感が堪能できる作品です。『囁きシリーズ』は他に『緋色の囁き』『黄昏の囁き』があります。シリーズではありますがそれぞれが独立した作品なので、『暗闇の囁き』だけ読んでも問題ありません。) また、本書には『殺人鬼U−逆襲編−』(新潮文庫)という続編があります。前作で生死不明だった「殺人鬼」がやっぱり生きていて、それがこともあろうに人里におりてきて、病院を舞台に残虐非道の限りを尽くすという、「殺人鬼はやっぱり殺人鬼」のストーリーです。「前作には及ばない」という声もありますが、他人の"目"からものを見ることができるという余計な(笑)能力を持った少年を通して、あるときは被害者の視点から、あるときは殺人鬼の視点からという、一味違った観点から陰惨な殺人行為を鑑賞することができます(笑)。『殺人鬼』を楽しむことができた人にはオススメです。『殺人鬼』でもう懲りたという人には、とてもじゃないですがオススメできません。ホラーに興味はあるけど、いきなり上級者向け作品は…という方には少しソフトなホラー短編集『眼球綺譚』(集英社文庫)をオススメします(これでも中級者レベルだと思いますが…)。 事件の発端に死体が用意されているいわゆるミステリ小説ばかり読んでいると、どのように人が死ぬのかということについてはおろそかになりがちです。そうした点に思いを巡らす作品として、本書のような作品もやはり必要だと思います。ひっそりとオススメします(笑)。 |