| ぶたぶた |
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| 作者:矢崎存美(やざき・ありみ) 出版:徳間デュアル文庫 初刊:1998 装丁:CG 杉山摂朗 定価:676円+税 |
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[あらすじ] 大きな耳に大きな鼻。黒いつぶらなビーズの目に短い手足。ピンクのふわふわした体…。どこからどう見てもそれはぶたのぬいぐるみであるにもかかわらず、鼻をもくもく動かして話す様子や、現にテクテク歩いてる…。そいつはあるときはベテランのベビー・シッター、またあるときはフランス料理の名コックさんだったり…、そいつの名前は「山崎ぶたぶた」(♂。ちなみに声はおっさんみたいな渋い声)! 「ぶたぶた」…。何という書名でしょう。おまけに、見事なコンピュータ・グラフィックで描かれた「ぶた」のぬいぐるみ。「何だこれは!」と思わず手にとってしまったが最後、気になってしまってついつい買ってしまったというのが本書とアイヨシとの運命的な出会いだったりしますが…良かったです!「ぶたぶた」最高!ブラボー!もう続刊を買うことに迷いはありませんでした。(本書の続刊『刑事ぶたぶた』と『ぶたぶたの休日』は同じく徳間デュアル文庫より。ラブリーなCGも含めて最高にオススメです。次回作が待ち遠しいです。) …とまあ、以上で書評をお終いにしても良いと思えるくらい本書の感動は素晴らしいもので、これ以上は野暮のような気もしますが、あえて書きましょう。いや、とにかく読書が好きで、かつ、本書を未読という幸せな方は速攻で本書を買い求めることをオススメします。 この本を読み終わった後、この作品が一般にどのように評価されているのかが気になったのでインターネットで本書の書評を検索していくつか読んでみましたが、1998年に廣済堂出版から単行本で刊行された時点で知っている人にとってはかなり評判の高かった本のようです。しかし、それから約3年か経過した後にかわいいCGと共に文庫本となって、こうしてアイヨシの手に渡ったことは非常に幸運なことだと思います。 本書は、幸運にも彼(ぶたぶた)と出会った人間達の心の動きを描いた連作短編集です。 アイヨシは気楽に読める短編集だと思って買ったのですが、しかし、そんな甘いもんじゃなかったといいますか、確かに気楽に楽しく読める本です。癒し系小説ですが、しかし、そんな単純なものではないという、自分でも何を書いているのか分からないのは分かってますが、それほどに上質な時間を与えてくれた本です。 当たり前のことですが小説というのはフィクションです。それで、読書をしない人は「作り事の物語を読んでも何の役にも立たない…」と公言して憚らない人がアイヨシの身近にもいます。押し付けがましいですが、そうした人達にもオススメしたい本です。「これを読まずして小説を否定するな!」という一冊です。上手くいえませんが、アイヨシが本書を読んで感じたのは物語というものが本来的に持っている魅力といいますか、原点ともいうべきものです。本書の各短編を連作集たらしめているものは「ぶたぶた」の存在なわけですが、この「ぶたぶた」が読者を物語の世界に導いてくれる役割を果たしているとともに、作中の登場人物にとっても理不尽と不思議のかたまりである「ぶたぶた」の存在を認識することによって自らの生きている現実の現実感を喪失して、それによって自らの内面を見つめなおしていくことができるのです。そういった登場人物の心の機微(この辺りの表現力は卓越してます!)に読者はときに笑い困惑して、ときに涙して感動するわけです。 各短編の主人公は「ぶたぶた」の存在に驚き困惑しますが、当の「ぶたぶた」本人や他の人間は自然に振舞ってるのでおかしいです。「えっ?なんで?なんであんたたちは平気なんだ!」という各主人公の心の叫びは水戸黄門の印籠同じくこの作品のパターンですが、そうした自然なボケ・ツッコミに近いリズム感は読んでて心地いいですし、主人公の心の動きを読者により身近なものにします。(すごいぞ「ぶたぶた」!) それに、作者は「ぶたぶた」がぬいぐるみであるということから逃げていません(笑)。現に、腕が取れかかったら針で縫い直さなければなりませんし、パンヤがはみ出たら詰め直さないといけません。でも、ぬいぐるみなので車に轢かれてもポーンと遠くに吹っ飛ぶだけで命に別状はありません(笑)。こうしたシュールな笑いも本書の魅力です。 本書は連作短編集集なのですが、その配置も絶妙です。「初恋」に始まって「しらふの客」や「銀色のプール」他いくつかの作品をはさんで「桜色を探しに」で終わる構成は、まさに最上級の組曲です。 もちろんすべての主人公が生きたぶたのぬいぐるみの存在を許容できるはずもなく、そうした話として「ストレンジ・ガーデン」があります。この主人公は自分にだけ「山崎さん」がぶたのぬいぐるみに見えてるんだ…と思うのですが(そうでない保証はありませんが…)、この作品がまたいい味を出しているのです!ピリッときいてます。 「ぶたぶた」の生活の報告書を書くことになった私立探偵が主人公の「追う者、追われるもの」は抱腹絶倒ものです。立ち読み厳禁です。そして、傑作ぞろいの本書の中でもアイヨシが白眉だと思うのが「殺られ屋」(やられや)です。この短編では、誰かに殺意を抱いていてそれを解消できない人のために代わりに殺され役になるという、刺されても叩かれても平気なぬいぐるみにしかできない(火はダメですが…)変な仕事をなりわいとしている「ぶたぶた」と、ちょっとしたことで誰ともなく殺意を抱いてしまう主人公との交流を描いた作品ですが…上手い!もう何も言うことはありません。実に深い作品です。 とにかくものすごい作品集ですが、その素晴らしさを知ってもらうためにはやはり実際に読んでいただくしかないでしょう。ただ、実際、書店に置いてある「ぶたぶた」は一見するとイロモノっぽく見えてしまい、文系硬派を自認する方には手にとりにくいかもしれません。 そんな方には、作者である矢崎存美が開設しているHP「矢崎電脳海牛倶楽部」を紹介しましょう。ここで実際に「ぶたぶた」の登場する作品を立ち読みすることができます。そうすれば、あなたも「ぶたぶた」の虜になること間違いなしです。 この書評のコーナーで紹介している全ての本はアイヨシが最高に面白いと思った本なので、どの本もオススメですし、大きなお世話ですが広く世の中に普及してたくさんの人に読まれれば何となくうれしいです。そんな素晴らしい本の中でも、「ぶたぶた」は1、2を争う出来であると断言することができます。とにかく面白いので、未読の方は是非とも読んでみて下さい。 |