| 捜査 |
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| 原題:SLEDZTWO 作者:スタニスワフ・レム(Stanislaw Lem) 訳者:深見弾 出版:ハヤカワ文庫 装丁:カバー 栗原裕孝 初刊:1959 定価:580円+税 (※スタニスワフ・レムはポーランドの作家なので、原題及び作者の英語表記は不正確なものです。予めご了承下さい。) |
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[あらすじ] スコットランド・ヤードの一室で行われた緊急会議は、ここ一年以上の間に発生している死体消失事件についてのものだった。事件の単独捜査を任されたグレゴリイ警部補だが、真相解明は困難を極める…。 え〜と、皆さんは読む本をどのような基準で選ぶでしょうか?アイヨシは読書好きなので、たいしたこともない理由で選ぶこともありますが、お気に入りの作家が書いているというのは本を選ぶ上で欠かすことのできない基準です。 本書をアイヨシが読んだ理由もそれでして、『ソラリスの陽のもとに』『砂漠の惑星』という傑作感動SFを著したレムの作品である以上、読まないわけには行くまい!という単純な動機で本書を手にとりました。 …なぜこのような前置きを書いたかといいますと、本書は確かに面白かったですし感動もしましたが、もしレム以外の作家がこの作品を書いていたとしたら、果たしてアイヨシが同じように「感動した」と言い切れる自信がないからです。 レムはSFの巨匠として知られている作家です。それにしては“捜査”というタイトルはSF的ではありませんし、実際、物語も死体消失事件を巡っての警察の捜査が描かれていますし、主人公であるグレゴリイ警部補とその上司であるシェパード主任警部との間では濃密な捜査論が展開されます。これだけ書くとミステリみたいで、別にミステリ作品と言い切ってしまっても良いのですが、正直それには抵抗があります。でも、ミステリっぽいです(笑)。 じゃあ、やっぱりSFなのかと言われれば、それも違うと思います。そもそも、本書の背表紙のあらすじには“死体消失”と書かれていますが、実際には本来死体があるべき所から離れた場所で死体が見つかっているので“死体移動”事件といった方が適切かも知れませんが、とにかく何が起こっているのかが謎なのです。 そうした中で、捜査に行き詰まったグレゴリイ警部補は宇宙人とか未知の病原体といった仮説を唱えたりもしますが、そんなものは苦し紛れにただ言ってみるだけです。ただ、そうした仮説もSFの巨匠であるレムが書いているだけに結構面白いです(笑)。 また、登場人物の一人である学者が統計学的見地から死体消失事件の発生地点の予測・説明をしてみたりもしますが、それも事件の解決にとっては何の役にも立ちません。 そうした中で警部補は思います。「そもそもこれは警察が扱うような“事件”なのか?」 …って、笑っちゃいけません。別に無責任な態度をとっているわけではありません。散々悩んだ挙句の疑問なんですから。この辺から本書の主題らしきものが明らかになってくるのですが、つまり何が問題なのかということです。 事件の解決と真相の解明。通常の捜査の場合には警察にとって両者は同じものです。しかし、全く未知のできごとが事件として扱われてしまっている場合には話が違ってきます。警察は科学者ではありませんし、科学者には真相を解明する義務はありません(あくまでも学問の探求は自由意志によるものですから…)。 では警察はどうすればよいのか。もちろん、事件を解決すればよいのです。 ここで強引な力技が炸裂します!でっちあげの真相を作り上げるのです。しかも、それはお世辞にもよくできたものとはいえません。そんなものは作った本人達が一番よく知っています(笑)。ときどきミステリ作品であるような、不幸な犯人をかばうために見せかけの真相を作り上げるという類のでっちあげではありません。分からないから、お手上げだからでっちあげるのです。もちろん、SF的な仮説を用いることもなく、極めて実際的な解決を『行う』のです。そうです、無理やり『解決する』のです(笑)。 これがミステリならこのあと名探偵が登場して、「さて、この事件は…」と詠いだすところですが、本書にはそんな奴は登場せず、物語は静かに幕を下ろします。 つまり、本書も『ソラリスの陽のもとに』や『砂漠の惑星』と同じく、「未知のもの」に遭遇したときの人間の物語なのです。そうしたテーマを追求しつづけているレムの作品だからこそ、この“オチ”でも満足です。「ブラボー!」です。 しかし、これをミステリ作家が書いていたとしたら、おそらく「職場放棄だ!」と罵っていると思います(笑)。 本来書評というものは、一つの作品のみを評価の対象として、作者の人格や他の作品まで評価の対象とすることは邪道だとは思いますが、しかし、今回に限っては「レムが書いたんだから何でも許す!」というアイヨシの予断を否定し切れません(笑)。 ですが、珍無類の奇妙な小説であることは間違いないですし、むしろ“事件とは何か?”“解決とはどういうことか?”といった日頃見逃しがちな問題点を意識することができるという点で、案外ミステリばかり読んでいる人にオススメの本ではないかと思ってます。 まあ、ミステリとかSFといったジャンルは読者にとっては好みの指針にすぎないと思いますので、あんまり気にしない方が良いと思います。本書はSF好きもミステリ好きも楽しめて考えさせられる一冊です。 |