ユダの窓
原題:THE JUDAS WINDOW
著者:カーター・ディクスン(CARTER DICKSON)
訳者:砧一郎
出版:ハヤカワ文庫
装丁:山田維史
初刊:1938
定価:602円+税

[あらすじ]
 ジェイムズ・アンズウェルは結婚の許しをあるために恋人の父親の家を訪れたが、そこで恋人の父親をアーチェリーで射殺したという疑いをかけられ起訴されてしまった。
 様々な状況からアンズウェル以外には誰も入ることのできない密室状態であったことが明らかになりアンズウェルは窮地に立たされるが、彼の無実を信じるヘンリ・メルヴェール卿は〈ユダの窓〉の存在を主張し彼の弁護を担当し、真実を明らかにする…。



 本書は、ディクスン・カーがカーター・ディクスン名義で書いた作品です。ジョン・ディクスン・カーは本名で、そのペンネームでは主にフェル博士を探偵役としたシリーズ作品を書いています。対して、カーター・ディクスン名義ではヘンリ・メルヴェール卿(H・M卿)を探偵役としたシリーズ作品を主に執筆しています。もっとも、フェル博士もH・M卿もその性格や作風においてはたいした違いはないとされています。

 本書は、H・M卿が物語の割と最初の頃から主張する、密室の根拠を覆す〈ユダの窓〉が何かということが、なかなか明らかにされないという、H・M卿のもったいぶった態度(ストーリー展開)にやきもきさせられます。法廷戦術だとしても、読者としてはたまったものではありません(笑)。このトリックは、一般的にどこの家にもあるトリックあるため、他のミステリ作品においてもそれとなく言及されることが多いようで、知名度も高いです。

 本書を語る上で欠かすことができない点は、"法廷もの"だということです。すなわち、本書の舞台である英国の刑事裁判は日本と異なり陪審制度を採用しており、また、弁護士にも事務弁護士(ソリシター:法律相談や事務手続きを担当する弁護士)と法廷弁護士(バリスター:法廷で訴追者又は被告人側の弁護人となって審理に加わる弁護士)の2種類があったりと、なじみのない制度がとられているため、海外法廷ものを読むにはそれなりの知識があった方が良いのですが、本書はカーがストーリー・テラーとしての本領を十分に発揮している(皮肉な言い方をすれば、ラブコメやドタバタに無駄にページを割いてない、と言えます(笑))作品なので、楽しみながら英国の刑事裁判制度を知ることができます。
 この点、本書解説の山口雅也は、カーの生い立ちとして最初は法律家を目指していたが、その道に挫折して小説家に転身したという点を見逃すことはできないだろう、と指摘・解説しています。
加えて、本書では物語の前の冒頭において、訳者である砧一郎が英国の刑事裁判制度を分かりやすく説明してくれています。海外法廷ものには傑作が多いですから、それらの作品を10倍楽しむためにも、本書に書かれている程度の知識は備えておいた方が良いと思います。そうした意味で、本書は"法廷もの"の水先案内人役として、まさに適した作品だと思います。


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