| 三つの棺 | |
| 原題:THE THREE COFFINS 著者:ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr) 訳者:三田村裕 出版:ハヤカワ文庫 装丁:山田維史 初刊:1935 定価:602円+税 |
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[あらすじ] 酒場で吸血鬼談義をしていたグリモー教授の前に現れた黒装束の男が現れ、三日後に教授の家を訪れる者が教授の命を脅かすだろう、と不気味な予言を残して去っていく。 その三日後、謎の人物が教授の部屋を訪れ、銃声を聞きつけたフェル博士たちが駆けつけると、そこには胸を銃で撃たれた教授の姿があっただけで、来訪者の姿はどこにもなかった…。 この作品を読まずして密室を語るなかれ、と言われるくらいに有名な作品です。なかでも有名なのは、名探偵役のフェル博士が、物語の中において読者に向かって、 「わたしはこれから講義をする」「推理小説で"密閉されている部屋"という名で知られている状態の、一般的な機構及びその発展についてだ」 と、密室の講義を始める"密室講義"(本書p271以下)は、いわゆるメタ・ミステリ(=虚構のテキスト(本もしくは小説)を、それを読んでいる読者が属する現実の中に取り込むもの。アンソロジー『「Y」の悲劇』(講談社文庫。有栖川・篠田・二階堂・法月)、二階堂執筆個所p157より引用。)のはしりといえると思います。 "講義"の内容は、一.偶然の密室、二.殺人ではあるが被害者が自殺や事故死に追い込まれてしまった場合、三.機械的仕掛けによる殺人、四.殺人のように見せかけた自殺、五.錯覚・偽装による密室、六.遠隔殺人、七.被害者が密室状態の中にいるときはまだ生存しており、外から密室に他者が入ったときに、一番最初に部屋に入った者が被害者を殺すという方法、といった特別な項目を、ときには具体的にそのトリックを使っている作品を例として挙げた上で、ドアや窓、煙突に細工をする例を5類型にまとめて説明しています。個人的には、本書の本筋部分より面白いと思います(笑)。 密室・トリックの類型化は他にも江戸川乱歩をはじめいくつもありますが、何といっても"密室の帝王"といわれるカーの類型ですから、その価値はやはり高いといえるでしょう。 カーの小説にはこうした推理小説全般についての講釈がときどき見られますが、カーの推理小説・ミステリに対する真摯な想い・情熱が感じられて非常に好感が持てます。ドタバタだけじゃないのです(笑)。 ちなみに、カーは他にもカーター・ディクスンというペンネームを持っています。そして、カー名義ではギデオン・フェル博士が、ディクスン名義ではヘンリ・メルヴェール卿がシリーズとして探偵役をつとめています。どちらも同じようなキャラクターで、大柄で天上天下唯我独尊の性格でドタバタを引き起こしてばかりいます。評価の高い『火刑法廷』や『皇帝のかぎ煙草入れ』(ハヤカワ文庫)がノン・シリーズものなのも、決して偶然ではないと思います(笑)。 そうしたわけで、本書はミステリ史における歴史的意義の非常に大きな作品ではありますが、作品単体の評価としては、アイヨシ個人の評価はあまり高くありません。密室の真相であるトリックがカーの作品の中で最も複雑で機械なのが、アイヨシの好みではないからです(笑)。 そんな複雑さを緩和するための解説本として、文・有栖川有栖、画・磯田和一『有栖川有栖の密室大図鑑』(現代書林)をオススメします。この本は、古今東西の密室40作品を、有栖川有栖がネタばれせずに解説し、ミステリファンの漫画化磯田和一が密室をイラスト化したものです。ちなみに、この本の中で『三つの棺』について有栖川有栖は『本書を読まずして密室ものを語るのは、「スター・ウォーズ」を観ずにSF映画を語るに等しい。』と解説しています。 |