| 遠い約束 | |
| 作者:光原百合 出版:創元推理文庫 初刊:2001 装丁:カバーイラスト 野間美由紀 カバーデザイン 柳川貴代 定価:560円+税 |
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[あらすじ] 浪速大学にめでたく合格した吉野桜子は、三者三様の個性の持ち主である3人の先輩が所属する浪速大学ミステリ研究会、略して〈なんだいミステリ研〉の一員として暖かく迎えられる。読書会、合宿、交流会、と多忙な毎日の中に起こるミステリな出来事。そして、ミステリ好きの大叔父さんが残した遺言は、お決まりの暗号ミステリ!しかし、そんな知的ゲームの裏にある故人の想いは、桜子とのありし日の遠い約束を果たすためのものだった・・・。 あらすじからネタばれになっているような気が・・・。まあ、大目に見て下さい(笑)。 本書は、さわやか(すぎるくらい)な学生短編連作もののミステリです。 ミステリの基本は魅力的な謎、巧妙な伏線、鮮やかな解決の三本柱ですが、本書で主眼が置かれているのは、いみじくも作中の登場人物が「本格推理小説っていうものにはな、綺麗な解決が何より大切なんだ。トリックも意外な犯人も、すべてそれに奉仕するためにあるといっていい」(本書p48より)と述べているように、明らかに"解決"がメインとなっています。 その"綺麗な解決"を支えているのは〈なんだいミステリ研〉の黒田、清水、若尾という三人の先輩です。彼らの推理のスタイルは(性格も)見事にバラバラです。大学での専攻も、黒田は自然科学(理学部)、清水は人文学(文学部)、若尾は社会科学(法学部)とバラバラです。蛇足ですが、大学、大学院と法律を勉強してきたアイヨシとしては、相続についての若尾の蘊蓄は読んでいて非常に楽しく、また、懐かしく思います。 少し横道に逸れますが、本書のイラストは漫画家の野間美由紀が手掛けています(個人的には、いわゆる少女マンガは苦手ですが…)。漫画のキャラクターの特徴として、性格が外見にそのまま現れるというものがあります。本書のイラストにもその特徴がそのまま当てはまります。すなわち、黒田は豪放快活、清水は穏和で謙虚、若尾は冷静で毒舌家といったイラストどおりの性格で、かつ推理のスタイルも性格を反映したものになっています。しかし、そういった典型的すぎるともいうべきキャラの性格付けは本書においては作者が意図的に行ったものでしょうから、そうした意味で、漫画家が本書のイラストを担当したというところに編集者の企図を感じてしまうのはアイヨシだけでしょうか?とにかく、探偵役である3人の性格が固定的かつ個性的に描かれていることによって、3人の推理合戦が魅力的なハーモニーを醸し出すのです。いわば、本書はその連作短編集という構成と相俟って、組曲ともいうべき読後感を味わうことができます。 もっとも、固定的な性格といっても、実際はそんなに単純なものではありません。特に、黒田の性格は奥深いものがあります。単純で直情的な部分が強調されていますが、「忘レナイデ・・・・・・」ではわざと間違えた推理をして真相を理解し易いものにするという、凡百の探偵にはできない芸当を行っています(名探偵にはプライドが高いのが多いですから・・・)。大体、アナログ探偵のくせに理学部の学生がつとまっているのですから、3人の中で人間的に最強なのは黒田ではないかと思います。 黒田の推理については本書において西澤保彦の解説が詳しいのでそちらを読まれることを強くをお勧めしますが、つまり、本書で3人が行う推理の競演は推理合戦というよりは合作推理というべきものなのです。 あと、本書でアイヨシがうれしく思ったのは、ミステリ・ファン(あるいはマニア)の気持ちを実に見事に書いているな、ということです。桜子の大叔父である大のミステリ・ファンである澤村源太郎が残した遺言書は、本来ならば不健全極まりない(?)ミステリマニアの思い・どうしようもなさといったものを、実に簡明にして的確に、かつ美化して描いてくれているという点で、アイヨシとしては読み終わって非常に救われた気持ちがしました(笑)。そんなわけで、本書は、アイヨシにとってはオアシス的な作品です。その分、ミステリにはつきもののスプラッタな死体や入り組んだ人間関係、難解な殺意といった素敵な暗黒面(!?)は本書にはありませんが、たまにはいいでしょう(笑)。普段どんな本を読んでるんだ!などと自分に突っ込んだところで、今回はこれまで。 |