ゴールデン・サマー
原題:The Golden Summer
著者:ダニエル・ネイサン(Daniel Nathan)
訳者:谷口年史(たにぐち・としふみ)
初刊:1953
出版:東京創元社
装丁:装画 中山泰
定価:1500円+税
ISBN4−488−01323−6

[あらすじ]
 1915年、ニューヨーク州の小さな町エルマイラで、ダニーは友人たちと夏休みを過ごしていた。
 コンクリートを盗んで劇場を作ったり、幽霊を見せるといってお金を集めたり、サーカスをただ見したりと、少年たちの夏は忙しく過ぎていく…。
 『トム・ソーヤーの冒険』にミステリのエッセンスを加えた、わんぱく坊主の冒険小説。



 エラリー・クイーンの片割れフレデリック・ダネイことダニエル・ネイサンが単独で書いた、ミステリじゃない自伝的普通小説です。
 単独で、しかもミステリじゃない小説をクイーン名義を使わずにダネイが書いた理由は、「1948年に生まれた息子スティーブンが脳障害で長生きできないことを知ったダネイは、自分のかつての少年時代の穏やかな世界をよみがえらせ、現在の行き場のない怒りを封じ込めようとして、この本をたった一人で書いた」(p236)とのことです。
 そういうシビアな執筆動機があるのですが、内容自体はそんな背景を感じさせない、楽しくてノスタルジックな少年時代の夏休みの冒険を生き生きと描いたものになってます。
 ただ、ホントに楽しく読めたのかといえば、正直にいえば憎たらしい気持ちも多分にありました。なぜなら、主人公のダニーが小賢しすぎるからです。とにかく小銭が大好きで、それを稼ぐために頭を使うのが大好きで、少々あくどいことも平気でやります。読む人が読めば楽しく読めるのかもしれません。私が本書を素直に楽しめない理由に、自分の少年時代と照らし合わせることで起きる同族嫌悪の気持ちがあることが否めないので(笑)。
 いや、フォローしておかないといけませんね。私の少年時代はこんなに悪い奴じゃありませんでした。主人公のダニーは知能犯のクソガキです。基本的に詐欺の常習犯で、それに窃盗とかギャンブルとかが加わります。運動の方はからっきしなので脅したりはしないのですが、子どもなりに知恵をフルに活用して小銭を稼ごうとします。こんな奴が身近にいたら嫌だろうなぁ(笑)。

 自伝的小説なので、クイーンのファンなら本書を読むことで、ダネイの人生経験がクイーン作品にどう影響しているのか、とか、リーとダネイの役割分担を知るためのとっかかりになったり、といったメタな読みをするのも楽しみ方の一つでしょう。例えば、本書は短編連作の形式をとっているので物語の長編化にはリーの役割が大きかったんだな、とかライツヴィルと本書の舞台エルマイラは似ているな、といった楽しみ方ができます。

 そんなわけで、本書はミステリじゃないです。ただ、主人公のダニーは口先三寸で友人たちを操ったり詐欺まがいのことをして小銭を稼いでいるのですが、見方によっては倒叙ミステリ(=犯人の視点から描かれた犯罪小説)であるともいえます。企みが上手くいくこともあれば失敗することも結構あるのですが、そうした因果のロジックはやっぱりクイーンだなぁと思うこともしばしばです。通奏低音としてミステリの技法があることは間違いないと思います。


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