原題:FACE TO FACE
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:尾坂力(おさか・つとむ)
初刊:1967
出版:ハヤカワ文庫
装丁:カバー 巽亜古
定価:600円+税
ISBN4−15−070123−7
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[あらすじ]
 ”自分の声を演奏する”といわれた歌手、グローリーは莫大な財産を築いた後に引退していた。
 その彼女が何者かに拳銃で射殺されるという事件が発生した。現場には、―― face ――の文字が書き残されていた。
 エラリイはダイイング・メッセージの謎を解き明かすことができるのか?


〔Caution!! ネタばれ注意〕

「彼女は自分が死ぬことを知っており、死体を一番先に発見するのは夫だと知っていたから、死にぎわの遺書を一番先に見るのも夫だとわかっていた。もし彼女が彼の共犯者の名前か人相を書いたり、あるいは彼の名前を引き合いに出せば、彼は警察へ届ける前に、それを始末してしまうだろう。そこで――」
(p50より)


※本書の合作問題についてはこちらに簡単にまとめてあります。

 ダイイング・メッセージです。ただ、本書は少し凝った趣向が用意されています。
 一般的にダイイング・メッセージには、死ぬ間際の人間がそんなことを考える暇があるのか、というもっともな疑問がつきまとっています。
 ところが、本書の被害者は、自らが夫の手によって殺されることを予測しており、そのため、いざというときにどういったダイイング・メッセージを書き残したらよいのかを考えることができたと、いう設定になっています。
 難解なダイイング・メッセージを残すための合理的理由としてここまで考えたのは、それなりに評価できると思います。とはいえ、ネタ的には短編向けのものだと思います。それを長編に仕上げていますが、「さすが!」と見るか「冗長な……」と見るかは意見が分かれるところでしょう。
 とはいえ、「人間の生涯の終わりには、比類ない神々しい瞬間が訪れて、その精神能力が限りなく昂揚するもののようです」(『Xの悲劇』p316より)などという理屈よりは説得力があると思います。

 しかし、なんだか後味が悪いといいますか、キレがないですね。
 二段オチを狙ったのかもしれませんが、ダイイング・メッセージの謎が解読された時点で犯人が明らかにならないというのはスッキリしないものがあります。それに、このオチは『靴に棲む老婆』で既に使用済みですし、そうした意味で新味に欠けます。
 そもそも、ダイイング・メッセージの出来自体がそんなによいものとは思えません。それに、ダイイング・メッセージ→遺書→真相という論理の経路をたどりますが、そこから犯人に直結していないので、ダイイング・メッセージの解読にカタルシスがないのも大きなマイナスだと思います。

 そんなわけで、正直なところそんなに面白くはありませんでした。


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