三角形の第四辺
原題:THE FOURTH SIDE OF THE TRIANGLE
作者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)
訳者:青田勝(あおた・かつ)
初刊:1965
出版:ハヤカワ文庫
装丁:カバー 巽亜古
定価:720円+税
ISBN4−15−070124−5

[あらすじ]
 デイン・マッケルは実業家の父が浮気をしていると母親から聞かされ、事実を確認するだめに問題の女シーラに近づくことにした。ところが、彼女をデートを重ねるうちに、彼自身が彼女と関係を持ってしまうことになる。
 その矢先、彼女が何者かに射殺されてしまう。容疑者が二転三転する中で、意外な事実が明らかになる……。


〔Caution!! ネタばれ注意〕

 だが作家というものは、みんな極悪人ではないだろうか? 彼らは食肉獣で、親友や仇敵の肉を一しょくたにむさぼり食っては、単なる消化を楽しむために違う形のエネルギーに変えてしまうではないか?
(p51より)


※本書の合作問題についてはこちらに簡単にまとめてあります。

 タイトル『三角形の第四辺』ですが、三角関係のもつれた果ての意外な真実、というような意味だと思って読み始めました。
 さもありなん、ドロドロした、序盤は昼ドラめいた人間関係が展開されましたが、覚悟はできていたので我慢できました。殺人事件が発生したときにはホッとしました(笑)。

 で、骨折して入院していたエラリイは、次々と容疑者となっていく、デインの父親、母親、デイン自身の三人のために安楽椅子探偵していくのですが……。
 これって面白いですね。シチュエーション・コメディとして(笑)。
 仮説の構築・崩壊・再構築の結果、容疑者が二転三転するというのは決して珍しいことではないですが、普通はあくまで机上の議論で終わります。本書みたいに、容疑者が実際に逮捕されては釈放される、というのを繰り返すのはあまり例がないのではないでしょうか。いや、結構笑いました。

 挙句の果てに、エラリイが大失敗をしてしまいます。いや、彼が失敗するのは決して珍しいことではありませんが(笑)、それにしてもこんな凡ミスめいた失敗して、さらにクイーン警視に出し抜かれてしまうというのは稀ではないでしょうか? 予想できませんでした。
 もっとも、事態を決定付ける証拠が発見されたのが最後の最後なので、エラリイが真相をつかみ損ねたのも当然といえば当然ですが……。(したがいまして、ミステリとしては伏線が全く張られていないという点で不満です。)

 彼が失敗した原因として無視できないのが、知らず知らずのうちに、彼が真実を追究する普段の「探偵」役ではなく、容疑者のために頑張る「弁護士」役になってしまったことでしょう。
「いままでわれわれは、外側から中へ向かっていろいろやってきました。被告はこの罪を犯しえたはずがないことを立証しようとしたのでした――これは消極的な取りかかり方です。今後は内側から外へ向かってやらねばなりません。積極的にです。いいですか?」(p253より)なんてエラリイのセリフは、まさに弁護士のそれです。
 普通、法廷ミステリでは検察官と裁判官、弁護士という三角関係があって、そこで第四辺を形成するのが「探偵」役の仕事となります。しかし、本書ではエラリイが「弁護士」役に堕してしまいました。そのため、真実を指摘する役割を他者に奪われてしまった、と考えられます。

 いずれにしましても、本書でのエラリイの醜態は例外ですので、本書を読んだだけでエラリイはダメ探偵だ、と思うのは早とちりなのでお気をつけ下さい(笑)。


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